アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
ほんまはな……
-
カポン、と露天風呂の脇にある鹿おどしが鳴った。
湯けむりが辺り一面に漂い、夜風が火照る体をひんやりと突き抜ける。
「ふはあ〜。やっぱうちの露天風呂は最高やの〜。」
肩まで一気に湯に浸けると、ここ最近の疲れが一気に抜けて行く感覚がした。
「めっちゃ星出とるやん。な、いっちゃんもはようこっち来てや‼︎」
湯船から見上げた空はめちゃくちゃ綺麗で、早く一緒にこれが見たくて、体流しゆういっちゃんに向かってそう言うた。
「大声出さないでよ。近所迷惑だよ。」
「ふふん。ここら辺はうちの敷地や。近所のお宅なんか山降りんと無いもん〜。」
るんるん気分でそう返すと、いっちゃんはため息を吐きながら湯船に足を入れた。
ざば、と湯船に波紋が出来、ゆっくりといっちゃんは俺の隣に来て肩まで湯に浸かった。
「にしても、露天風呂があるなんて凄いね。」
「そうやろ‼︎親父が風呂好きでな。俺も風呂好きやし、何より夜風に当たりながら風呂入るん最高やろ?」
「……そうだね。」
ほんのりと赤く染まるいっちゃんの頬。
柔らかい笑顔を向けられ、俺も嬉しくて笑顔を返した。
「星…綺麗だね。」
「………おん。」
「………」
「…………」
二人で夜空を見上げ、そこに散らばる無数の星屑をじぃ〜と眺めた。
今まで、一人でここから見えるこの星を見て来たけんど、今はいっちゃんと二人で見よる。
「……なに?」
「ん?いや…」
なんか、それがめっちゃ嬉しい。
「なんもないよ。」
「?」
今まで誰かが隣におってこんなに心地良いと感じた事は無かった。
桐島は俺の兄貴やけど、なんかそれとは別というか。
「…………」
「……………」
話さんくても、隣におるだけで心がポカポカしてくる。
風呂に浸かっとるきかな?
「………いっちゃん」
「……なに?」
「………」
名前を呼ぶだけで、ぎゅぅぅぅって胸が苦しくなって、もっと近くに寄りたいって気持ちが溢れる。
「もうちょいそっち行ってもえい?」
「……………」
前は、いちいち許可なんか取らんかったのに、自分が取る行動の全部が慎重になる。
「……いいよ。」
「‼︎」
いいよって言ってくれた‼︎
「ん、じゃ、じゃあ……お邪魔します。」
「なにそれ。ここは君の家でしょ。」
「…隣にお邪魔しますって意味や。」
「……そう。」
「…………」
さっきよりも近くに寄って、肩と肩がちょこんと当たる。
「あ、熱いなぁ?」
「そうかな?丁度いい湯加減だけど。」
「……っそ、そうやな…」
「…?」
少しだけ密着した肌から、じんわりと熱が伝わって来て、頭がぼぅっとして、いっちゃんが息を吐くたびに、ビクビクしよる自分がおる。
「日野、なんでそんなに大人しいの?」
「ぬえ⁉︎」
やば……俺が緊張しとるって気付かれた?
「別に大人しくなんか無いぞ‼︎」
「…………」
「はは、なんなら今からここでクロールしちゃろか?」
「それはやめて。」
クロールをしようとしたら、ベシっ、と頭を叩かれた。
「いてて」と言いながら笑ってごめんと言ったけんど、いっちゃんが言うた様に、どうもいつもみたいに振る舞う事が出来ん。
「……………い、いっちゃん…」
「なに?」
好きになったら、こんなに調子狂う程相手の事を意識してしまうもんながかな…?
「……好き…」
「………」
少しだけ距離をとってそう呟く。
こんな場所で裸で二人きりやなんて、ちょっと前の俺なら迷わずいっちゃんを襲っとったはずや。
「好きになってくれて…ほんまにありがとう……」
けんど、今はそれを言うだけで精一杯で。
大事にしたいき、下手に手を出す事は出来ん。
「……うん。…」
いっちゃんは、びっくりした顔をして、そのあと顔を背けてそう頷いた。
「……こちらこそ……ありがとう…」
「………‼︎」
そっぽを向いたいっちゃんの耳は真っ赤に染まっとって、ありがとうと返されるとどうしようもない程嬉しい気持ちがぶわっと体の奥から溢れた。
「いっちゃん‼︎‼︎」
「ちょっ」
かぽん、と鹿おどしが鳴る中、我慢出来んくなった俺はいっちゃんに勢いよく抱き付いてしまった。
「日野っ‼︎なに…っ?」
「…………」
ぎゅぅぅぅっと、力一杯抱き締める。
お互いの体は熱くて、同じシャンプーの香りと、同じ程強く脈を打つ心臓の音が聞こえて来る。
「いっちゃん…」
色白で、綺麗なその肌に前は無かったものが刻まれとる。
「……………」
右肩から腕に掛けて伸びる龍の刺青。
これと同じものが俺の左腕にはあるけんど、こんなに綺麗やと思うた事は今まで一度も無かった。
「…ほんまに…いっちゃんは綺麗やなぁ…」
「…………」
簡単に消す事が出来んものを体に刻ませてしまって、本当に申し訳ない気持ちとは裏腹に、この刺青が、いつまでも俺といっちゃんを繋いでくれる唯一の証の様に思えて。嬉しくて、嬉しくて……
「綺麗や……誰よりも綺麗や…」
「…………」
抱き締める。それ以上に手は出せんかった。
いっちゃんの手が背中に回ると、更にドキドキと鼓動が早くなって、何もせんでえいき、このままずっと…時間が止まればえいのになって思った。
「俺…俺ならいっちゃんを幸せに出来るよ…」
「……それ、嘘だったら承知しないから。」
「……おん……嘘やない。」
本当に、この気持ちは嘘やない。
ほんまはな。今までいっちゃんに対して結構嘘付いてしもうたがよ。
小テストの事とか……ほんまは結構いい点取れちょった。
けんどもし俺がいい点取れたって言ったら、いっちゃんは「ならもう勉強会は必要ないね。」って言うかと思って。
そうなったら、いっちゃんと一緒におれる時間が無くなってしまうって思って。
それが嫌で、「小テストダメダメやった。」なんて嘘付いてしまった。
あと、一緒に食堂でカレー食べた時な。
ほんまはあの日、俺の大好物の生姜焼き定食食べようと思うちょったがよ。
でもいっちゃんがカレー注文しよって、それ見たら知らん間に俺もカレー注文しちょった。
あの時は「カレーが食べたくなっただけ。」って嘘付いてしまったけんど、ほんまは一緒のものを食べたいなってそんな気持ちが働いたき、俺もあの日カレーにした。
「はは……俺めっちゃいっちゃんの事好きやん…」
「?」
今思えば、もしかしたらその頃から俺は、いっちゃんの事が好きやったがかもしれん。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
446 / 617