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部長さんお静かに
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ついに始まってしまった。
手汗も額からの汗も、動悸も、とにかく全部が尋常じゃないくらいやばい。
つくづく思うけど、何で俺この種目に出てんだ……
『おーっと‼︎先に素早く着替えを済ませたのは赤組だぁーっ‼︎な、なんとっ‼︎あれはまさか、魔法少女‼︎魔法少女がバトンを片手に全力疾走しています‼︎』
軽快なアナウンスが流れると、応援席から歓声が上がる。
ちらりと先程アナウンスで紹介された魔法少女のクジを引いた赤組の女子を見てみる。
フリフリのスカートにデッカい星が先端に取り付けられたステッキ。ハートがいっぱい付いたピンクのカチューシャ。
完璧に着こなしたその衣装で、片手にステッキ。もう片方の手にバトン。
側から見れば完全なる魔法少女だ。
だがあの魔法少女は次の奴にバトンを渡す為に全力疾走している。
『さぁさぁさあっ‼︎魔法少女に続き着替えを済ませたのは⁉︎……おっと、あれは‼︎赤ずきんちゃんだぁあーーーっ‼︎青組は赤ずきんちゃんに変身しました‼︎赤ずきんちゃんが魔法少女を追いかけるーっ‼︎』
待て待て待て、今走ってる青組の第2ランナーは確か中野だろ⁉︎あいつ男だぞ‼︎男で赤ずきんちゃんだと⁉︎
『黄組も負けてない‼︎赤ずきんちゃんがスタートすると同時に着替えを済ませたようです‼︎そして黄組はなんとまさかの白ドレスだぁあーっ‼︎』
白ドレス⁉︎ここまでで女物しかクジ出てねえよな⁉︎
「くそ……やばい……」
リレーが開始されてからずっとだ。
ランナーが男にしろ女にしろ、みんな引いたクジは女物だ。
女子は異様にテンション上がってるけど、男の俺達からしたらこれは地獄のリレーだ…。
「頼む…女装だけはしたくない…女装だけは二度としたくない…」
「渋谷君‼︎応援して‼︎」
「お、おうっ」
どうかどうかと願っている時、同じチームの女子に肩を思い切り叩かれる。
顔を上げると、丁度バトンが次のランナーに渡される瞬間だった。
「はぁっ、はぁ…っ…くそ…めっちゃ恥ずかしい……」
「お疲れ様‼︎中野君いい走りだったよ‼︎」
「いい走りって……この格好でそう言われても…」
中野はボボボ、と顔を赤くして下を向いてた。
衣装の一部である赤ずきんを取ろうとしたら『競技が終わるまでそのままの格好でいて下さい。』とアナウンスが流れた。
それを聞いて顔が青ざめたのは中野だけではない。
俺も含めこのリレーに出てる男子全員だ。
「信じらんねえ…早く終わってくれ…」
中野はボソリと呟いてしゃがみ込む。
その呟いた言葉、激しく同意する。
「っ……」
いやだが中野よ。赤ずきんちゃんはまだマシだ。
さっきの黄組の奴みたいに白ドレスだったら最悪だったぞ。
てかよくドレス一人で着れたな……すげ…
「渋谷君‼︎次‼︎」
「おわっ‼︎」
ぐるぐると目が回りそうになっていると、女子に背中を押されスタートラインに送り込まれる。
あっという間に俺の番が回って来ようとしている。
もうこの種目が嫌過ぎて頭が混乱してきた。
白ドレスを着こなした黄組の男子を尊敬してしまうくらいだ。
俺の頭は今おかしい。
「書記くーーーーん‼︎見てますよぉおおお‼︎」
「⁉︎」
ついに俺の番が来るのかとドキドキハラハラしていると、向かいの応援席から張りのある声が聞こえた。
「ぶちょっ、さ…」
「ふふ、期待してますよ❤︎」
「………」
そこに居たのは、カメラをこちらに向け、目が合うとバチリとウインクを決めた部長さんだった。
「副会長に可愛いお姿見せてあげて下さい❤︎」
「なっ⁉︎」
んでそうなる‼︎絶対嫌だ‼︎
「部長さんっ、絶対写真撮らないで下さい‼︎」
「え〜、いいじゃないですかぁ〜❤︎」
くそっ‼︎最悪過ぎる‼︎
何でそんな写真撮りやすそうな場所でスタンバってんだよ部長さん‼︎
「渋谷ぁぁぁぁぁあああ‼︎」
「⁉︎⁉︎‼︎‼︎」
部長さんを睨み付けていると、とうとう背後から死のバトンを持ったダチが……
「って田中⁉︎お前なんだよその格好‼︎」
俺の前のランナーは田中。
名前を呼ばれてバトンを受け取る構えをしたまま振り向くと、田中はぴょんぴょんと両足ジャンプを繰り返しながらこちらに走って来てた。
「見て分かんねえのかよ‼︎ちくわだよ‼︎」
「は⁉︎」
「ゼェ…ち、ちくわの着ぐるみだよ‼︎」
はぁぁああ⁉︎
「ちょ、おま…」
何なんだよちくわの着ぐるみって‼︎初めて聞いたわ初めて見たわ‼︎
「ゼェっ、ゼェ…は、…っ渋谷…頼む…」
ちくわの着ぐるみには足を出すところが無かったらしく、田中は即席着替え室からここまで両足ジャンプで来たようだ。
「ま、任せろっ‼︎」
そして、死に物狂いでバトンを俺に託し、パタリとその場に倒れた田中にそう告げ俺はスタートラインを越えた。
「田中、お前の両足ジャンプは無駄にしねえっ」
華麗なジャンプだったぜ。と哀れみを込めて呟く。
だが田中のちくわ着ぐるみを見て確信した。
「っ、よしっ‼︎」
このリレーは、女装以外にもクジがある‼︎‼︎
少しの希望が見えた俺は、カッと目を見開き
衣装名が書かれた紙が地面に散らばるその場所まで来た。
「きゃーーーっ‼︎書記くーーーん‼︎❤︎」
部長さんの事は無視だ。
俺は集中したい。全神経を使って女装以外のクジを拾うんだ‼︎
「これだ……」
そして、俺は意を決し足元に落ちていた一枚の紙を拾った。
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