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最終競技開始
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暑さと疲れで肩を落としていた生徒も、体育祭が終盤に差し掛かると気迫とやる気が再熱していた。
それぞれの応援席から聞こえてくる歓声は、今から行われる最終競技の結末に期待し、また、歓声の大きさで競い合っている様にも思える。
「だるいって顔してるね。」
やけに熱くなる周りの奴らに呆れ、眉を顰めている時、そう声を掛けて来たのは樹だった。
「最後なんだからもっとやる気のある顔でもしたら?」
「うるさい。」
樹の顔も見ないまま素っ気ない返事を取ると、相変わらずだね。なんて言って樹は笑った。
「つか、お前それ脱げよ。」
そんな樹にようやく視線を移し、こんなクソ熱い中長袖のジャージを着てファスナーをしっかりと最後まで締め上げているその様を指摘した。
見てて暑苦しい。と加えて言ってやると、樹はファスナーを押さえながら襟で顔を隠し、珍しく俺に対して目を閉じて笑顔を向けた。
「いいんだ。別に暑くないよ。」
「は?俺が見てて暑苦しいって言ってんだよ。」
「じゃあ見なければいいよ。」
「チッ」
弾んだ声で返され、つい舌打ちをしてしまう。
そうこうしている間に、入場の合図が掛かった。
「ねえ、体育祭どうだった?」
「あ?」
前の奴に続き、駆け足で指定された場所に移動する最中、隣の列からこれまた珍しく話しかけて来る樹のその何気無い質問。
「楽しかった?」
「なんだよ。お前今日はやけに話しかけてくんのな。」
「話しかけたらいけないかな?」
「別に。」
ホイッスルが止むと同時に足を止める。
番が回ってくるまでその場にしゃがんで待機。だけど他の奴らはどうもこれから行われる競技のおかげでテンションが上がっている様で、しゃがんだらすぐに立ち上がりこれからスタートする奴に向かい応援の言葉を送っていた。
「成海、僕の話し聞いてるの?」
「聞いてるよ。」
別に、普段樹とあまり話しをしないわけじゃない。でも何故かこの時のこいつは、やたらと嬉しそうに俺に話しかけてくるから、それが少し癇に障った。
「あっという間だったね。」
「そうか?俺は死ぬ程長く感じた。」
「うん、でもほら、この競技で体育祭も終わっちゃうから。あっという間だよ。」
「……………」
樹の言葉を聞き終えると、号砲が二回鳴った。
勢い良くスタートラインから飛び出した選手に向け、またアツい歓声が送られる。
「まぁ、あっという間だな。」
湧く歓声、立ち上がり選手を応援する客席に応援席、それらを見渡すとポツリと出た言葉だった。
「新にちゃんと体操着渡してもらえたみたいで良かったよ。」
「やめろ、てめえのモンみたいに言うな。」
「別にそんなつもりで言ったんじゃないよ。」
「うるさい。」
隣の列の前から2番目に並んでいる新に視線を向けながら、安心したかの様にそう呟いた樹に今日一番カチンときた。
昼の出来事が鮮明に思い出される。あの時、なんで新があんな格好で更衣室に居るなんて事を樹から聞かされなくちゃならないんだと腹が立ってしょうがなかった。
樹も俺が腹を立ててるのを知った上で、嫌味の様にそう呟いたんだと思う。
「お前、本当にあいつに何もしてねえだろうな?」
「してないよ。」
即答で答えた樹を睨み付け、再び前を向く。
まぁ、してないってこいつがそう言ってるならそうなんだろうけど、俺より先に新のあんな格好を見たのがこいつだってのも、考えたら考えるだけ腹が立って仕方ない。
「はぁ……俺も餓鬼だな…」
「ん、なに?」
「なんでもねえよ。」
今更こいつに対して嫉妬しても仕方ないのは分かってるけど、今回みたいな事があると、つくづく俺は嫉妬深いんだなと思い知らされる。
ほんと、自分でも嫌なくらいに。
「ねえ、僕の質問には答えてくれないの?」
「あー、なんだっけ?」
大きなため息を吐きながら頭を掻いていると、樹は地面に落ちていた小さな石を拾い、その石で地面に丸を描きながら視線をこっちに寄越してきた。
「体育祭……楽しかった?」
「…………」
また一段と歓声が上がった。だけどその中でも小声で呟いた樹の言葉はしっかりと耳に入ってきた。
「僕は楽しかったよ。」
「…………」
前に、新が『会長はキラキラしてる。』と訳のわからない事を言っていたのをなんで今、ふと思い出したんだろう。
「まぁ、楽しかったんじゃない?」
「ふふ、なんで疑問系なの?」
ただ、なんとなくこの時は分からないでもないと思った。
そして、樹がふにゃりと笑った瞬間、一位を独走していた赤組の第一ランナーから第二ランナーへとバトンが渡された。続いて青、黄も第二ランナーへとバトンが渡された。
そうして競技もあっという間に過ぎて行き、次のランナーが1年から2年に切り替わろうとしていた時だ。
「めがねぇえええええ‼︎‼︎」
恐ろしく馬鹿でかい声でそう呼ばれ、反射的に顔はスタートラインの方に向いた。
「見てろよてめえ‼︎‼︎絶対負かしてやる‼︎‼︎」
「……………」
中指を立てそう言い放ったのは他でもない。
「なに?喧嘩でもしてるの?」
「してねえよ。」
ヒラヒラと手を振ってやると、んべっ、と舌を出された。その後すぐ新はバトンを受け取り走り出した。
一気に肩の力が抜け落ちる。
「はぁ……」
最後の競技。色別対抗リレー。
それぞれの色の組から選び抜かれた足の速い選手が各学年4人ずつ出場、そして一人200メートルを走り切らなければならない。
そんなめんどくさい競技に参加させられたのも憂鬱だが、新は同じ競技に俺が出る事を良いことに先程の様に張り切りまくっている。
「いっちゃん‼︎‼︎俺いっちゃんの為に絶対一位獲るきね‼︎‼︎」
「え、あっ、日野?」
「…………」
…………ってのは、どうやら新だけではなさそうだ。
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