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替えのランナー
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甲高い声が鼓膜を刺激する。
周りは相変わらずうるさくて、いっそ、もう早く出番来てくれねえかなと不満が募る。
「日野、当然だと思ったけど君もこのリレーに出てたんだね。」
「んふふん、そうやで〜!ちなみに俺はアンカー‼︎」
うるさいのがまた一人増えた。
俺と樹が話しをしているのを別の列から見ていたようで、我慢が出来なくなり列から外れこの場に来たとこの馬鹿は言った。
「ていうか、僕の為に一位獲るって何?」
「んお?」
「君は青組でしょ。」
「……??」
樹が言った言葉に、馬鹿は首を傾げた。
そして、その顔を見た樹が大きなため息を吐く。
「僕は黄組。」
「……ん?」
「だから、僕と君は敵ってこと。」
「ぬえ⁉︎」
その瞬間の馬鹿の表情は恐ろしいほど間抜けだった。どうやら、馬鹿は本当の意味で馬鹿なようで、樹が黄組の列に並んでるのにそれを理解する事が出来なかったらしい。
というか、事前に知る事出来なかったのか?
「ほんと馬鹿……」
隣で頭を抱えて発狂する馬鹿を横目に、樹は呆れたようにため息を吐いた。
その様子を俺は特に口を挟む事なく眺めていたのだけれど、樹が本当にこの馬鹿の事を好きなのかと考えると哀れになってくる。
「お前も大変だな。」
「大変なくらいが丁度いいよ。」
まぁ、樹は元々世話を焼くのが好きな部類の奴だから、これくらい馬鹿なやつが相手の方が逆にバランスが取れていいのかもしれない。
「あ、ほら、新が帰ってくるよ。」
徐に、樹がそう言った。
樹が指をさす方へと顔を向けると、闘志を纏った新がバトン片手に全力疾走でこちらに駆けてくる。
「お!姫!中々足速いやんか!」
「ちっさいから小回り効くんだよ。」
「成海、それ褒めてるの?貶してるの?」
「まぁまぁ!どっちにしろ、今の感じで行くと赤組抜くがやない?」
わはは、と馬鹿は胸を張って笑った。
確かに、新はどうやら本気のようで、目の前を走る赤組の選手の背中をしっかりと捉えていた。
「けど、あいつが赤組を抜いても、次の奴が赤組に抜かれたら意味無いだろ。」
その時の順位は、赤組、青組、そして黄組だった。
ランナーとの間にはほとんど距離が無く、この勝負はバトンを受け取る際のタイミングで全てが決まると思った。
「そやなぁ〜、確か姫の次のランナーは女の子やったきなぁ〜」
「でもその彼女、陸上部のエースらしいよ?」
「は?なに?女?」
二人の会話を聞きつつ、その二人の会話と、俺が今見てる光景の二つを照らし合わせてみる。
が、どうもおかしい。
「なに?お前らあれが女に見えるのか?」
「「え?」」
次の青組のランナーが待機している方へと指をさすと、明らかに二人の表情が強張った。
「日野、リレーのメンバーにあんな子居た?」
「え⁉︎…い、いや…俺その…練習サボりよったきその……」
「知らないならいいよ。…というか、サボってたって初耳なんだけど。」
「ご、ごめんちや‼︎」
この二人の痴話喧嘩はどうでもいい。
視線を元に戻し、その青組のランナーをもう一度よく見てみる。
「…………」
樹と馬鹿からの情報では、そのに立つべき人物は新と同じクラスで、陸上部エースの女子生徒。
「おいおい……まじかよ。」
だが、そこに立っていたのは格好こそ女だが、それを女と呼ぶにはあまりにも不自然で無理がある。
そして、バトンを渡す寸前に、そいつは満面の笑みを浮かべた。
今日、ここに居る誰よりも、ハツラツとした表情を見せて。
「お前は出たら駄目だろ。」
あんな不自然な生徒がこの学校に居たかなんて、俺以外気付いてないのか?と苦笑してしまう。
まぁ、大方新が仕組んだ事だろうと検討は付く。
そのランナーは、ミディアムくらいの黒髪で後ろでひとつ結び。体操着は恐らく貸し出し用の物を使ったんだろう。
だけど、どう見てもあれはヅラだ。
体操着も真新しく、汚れひとつ付いてない事が、【先程着た】という紛れもない真実を示している。
「あきひ……あきこぉおおおおお‼︎‼︎」
「おう‼︎」
………………
極め付けに、その人物の本当の名前を誤って口にしそうになった新を見て、確信した。
「絶対抜かれるなよ‼︎‼︎」
「任せとけ‼︎‼︎」
……………なんで、あの赤髪がこのリレーに出てんだよ。
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