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体育祭終了
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「ふぅ。」
重い腰を下ろして一息ついた。
窓の外を眺めると、体育祭で使用したテントを生徒達が片し、トラックに積んでいる姿が見える。
荷物を生徒会室に移動させ、僕はこの後体育祭実行委員と今日の事について少し話し合う時間がある。
それまで休んでいようと思っていた。
「ふふん、ふふんふん〜〜」
ご機嫌な鼻歌が室内に響き渡る。
ソファに寝転がりながら、一定したその鼻歌を歌っているのは今日一番ご機嫌な男だった。
「日野、そんなところで寝てないで外に行って片付けの手伝いでもしてきたら?」
「ん〜、いっちゃんが行くなら俺も行く〜」
「僕はこの後会議があるから。」
行けない。と伝えると、日野は「なら俺も行かない」と言った。
彼の声はとても嬉しそうで、僕が黙るとすぐにまた鼻歌を歌い始める。
「はぁ。」
そんな彼を見ているとため息がこぼれた。
僕に話しかけてほしそうな視線を時々こちらに向けて、目が合えばにこりと日野は笑った。
「優勝おめでとう。」
何度目か分からなかったが、その時また目が合いポツリとそう呟くと、日野は起き上がり満面の笑みを浮かべる。
「惚れ直した?」
「馬鹿な事言わないでよ。」
「えー‼︎俺頑張ったのに‼︎」
僕の返事に対して、子供のように、いーっ、と歯を見せて日野は拗ねた態度を見せる。だけどすぐにあのふにゃふにゃとした間抜けな笑顔に戻った。
また僕はため息が出た。日野の態度に呆れたからじゃなく、彼のその無邪気な姿に、どこか安心してため息が出た。
「かっこよかったよ。」
「ほんま⁉︎」
「うん。かっこよかった。」
「‼︎」
ピンっ、と日野の耳と尻尾が立ち上がる。
嬉しそうに尻尾を振って、「やった‼︎」と大袈裟に喜んでいる彼を見ると、負けたのに僕も嬉しい気持ちになった。
体育祭、色々あったけどとても有意義な時間を過ごせた。この三年間の学校行事の中で一番楽しかったかもしれない。
僕の組は、総合得点では負けてしまったけれど、負けた事なんて気にならないくらい、楽しかった。
「けど君があの時、手加減してたのは気に食わなかったよ。」
「後半ちゃんと本気出したやん〜‼︎」
ゆらりゆらりと、日野が大きく身体を揺らした。
その態度を見ると少しだけムッ、としたが、何も言わないでいた。
「でもいっちゃんもナルも思った以上に足速くてびっくりしたで。」
「別に僕も成海も運動が苦手って訳じゃないからね。」
最後のリレー。
アンカー対決では、暫く僕、成海、日野で横並び状態が続いていた。珍しく成海も本気を出して、本当に誰が先にゴールをするか分からない状況だったのに、ゴールを目の前にした瞬間、誰よりも先に前に出たのは日野だった。
「まさか、ゴール直前で本気出すなんて。」
そう言うと、日野はニタニタと笑い始めた。
その顔が少し癇に障ったからそっぽを向いて日野に背を向けた。
「けんど、ほんまにいっちゃんとナル速かったで。」
「それ上から目線。」
「上から目線とかやないけんど、二人共ほんま速くて本気じゃないと勝てんと思ったもん。それに、あの時俺めっちゃ楽しかった。」
「……………」
ゴール直前で本気を出されて、結局一番にゴールテープを切ったのは日野だった。
その後、数秒遅れで成海と僕がほぼ同着。
得点が高い最後のリレーで一位を獲れば、それまで総合得点が3位だった組にも優勝のチャンスが巡ってくる。
だが、僕の組は今回そのリレーで一位を獲れなかった。勝負事にはあまり興味がなかったが、今回日野に負けた事に対して悔しいという感情が芽生えたという事は、僕もリレーを思う存分楽しんでいたという事だ。
「俺、今日みたいな行事したのは幼稚園とか小学生の時の運動会以来やわ〜。」
余韻に浸りながら、日野が楽しそうな表情を見せて呟く。
「…………」
その表情を見て、微笑ましい気持ちになりながら、僕は視線をまた窓の外へと移した。
リレーが終わるとすぐに新が僕のところへ駆けつけて来たが、とても申し訳なさそうな顔をしていた。
新が何を言おうとしているのか、僕は知っていたから、叱るべきだったんだろうけど、僕は何も見てないで通した。
何があったにしろ、新も僕も、もちろんその他周り生徒達もとても素敵な時間を過ごせたんだ。
リレーに他校の生徒が出場してたなんて。誰も気にかけたりしない。誰にも言わなければその違反行為は無かった事に出来る。
今回は僕も普通の生徒として、その件についてそれ以上の事は言わなかった。
体育祭での順位。
3位は僕が属していた黄組。僅差で、優勝青組、準優勝は赤組となった。
「………そう言えば……」
「んお?」
「……………」
そう言えば、優勝したのに新の表情はとても暗かった。違反行為をしてしまった事に対してなのか、それとも、成海絡みの事なのか……
「いっちゃん?」
どっちにしろ、きっと新はまた成海に意地悪されちゃうのかな?
「ふふっ」
「?」
二人の事も気になりながら、僕は必要な資料を持って立ち上がった。
そろそろ会議の時間だ。
「30分くらいで終わると思うけど…」
「じゃあ終わるまで待ちよる‼︎」
「……うん。」
30分後、玄関先で日野と合流し、一緒に帰る約束をした。
「会議頑張ってな〜‼︎」
「うん。」
楽しい気持ちのまま、僕は今日を終える事が出来そうだ。
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