アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
命令だ
-
「……ど、どうしてほしいって…」
その時新は、そんなの分からない。という様な顔をした。
真っ直ぐと新を見下ろして、逸そうとする視線をこちらへと向かせる。
「…お、お前なんか変だぞっ…なんだよどうしたんだよ急にっ……つか退けよっ…俺まだ飯食ってんだぞっ…」
「うん……でも…」
「…??」
お前が、そうやって寂しそうな顔するから。本当はいじめたいのに、そうやって不意に弱い部分を見せられると、優しくしたいと思うのはおかしな事だろうか。変な事だろうか。
「あ、あれだろ‼︎本当はオムライス不味かったんだろ‼︎だからこんな嫌がらせを…」
「甘えさせてやりたいって思っただけだけど」
「へ……」
「………………」
オムライス……本当に美味しかったよ。じゃなきゃ美味しいって言わないし。それに、お前が一生懸命作ってくれたんだから尚更。
「ど、退けよ…眼鏡…」
「……………」
思い過ごしかもしれないし、勘違いかもしれない。
けど、ほんの少しの変化だって、お前の場合見逃しちまったら、また後々お前が傷付く事になるかもしれない。
「おい眼鏡‼︎…」
本当に大丈夫なら、いつもみたいにあの強気な目で俺を威嚇すればいい。
「新……」
「っ‼︎」
調子に乗るな。って怒鳴ればいいのに。
お前は今それをしない。
「…………背、伸びた?」
「っ……え?」
手首から手を離して、キョトンとする新の頬を撫でる。親指で下唇に触れて、今度は首へと手を滑らせた。
「髪も随分伸びたよな」
「……急に……なに、言って」
ずっと一緒にいたからそんな事気にもしなかったけど、こうしてじっくりと新を眺めてみると、前より確かに身体は成長してる。
ほんの少し。小さな変化だけど。
「声もさ、少しだけど低くなってる気がするし」
「…………」
どうして今、そんな事をこいつに言いたくなったのかは自分でも分からない。でも、何故か今、言いたくなった。
「ちっさいお前も好きだけど、これからもっとでかくなんだよな…お前も」
「…………」
相変わらず身体は細いし、小さい事でむきになったり、俺に勝負を挑んできたりするとこはまだまだ餓鬼だけど、中身も含めて新は確実に大きくなってる。
「まぁ、お前が俺より身長高くなるとは思えねえけど」
「…………」
なんだか、新が大人になっていく姿を見て感じる事が出来るのが嬉しくて……
つい、笑ってしまった。
「……っ…ふぇ…」
「⁉︎」
そしたら、次の瞬間、何故か新はボロリと大粒の涙を零した。
「ご…ごめん…別に泣かそうとして言ったんじゃ」
まさかの展開になり、慌てて身体を離すと、新は顔を腕で覆い、更にはベッドに顔を埋めてしまった。
「…っ最悪だお前…」
「ちょ、まじで今回そんなつもりなかったって」
「最悪だ‼︎」
「………」
意図的に泣かしてない状態で、初めて俺はどうしたらいいか分からなくなってしまった。
本当に泣かそうとして言ったんじゃないし、それになにが原因で新が泣いたのかが分からない。
「な、なぁ…機嫌直せよ…悪かったって…けど俺が言ったの本当の事だぞ……お前、前より色々成長してるなぁ〜って思ったから…」
「…ズッ……うゔっ…」
「⁉︎ちょ、」
なんだ??『前より成長した』がNGワードなのか?
「新?おい、何が気に食わなかったんだよ…」
トン、と新の背中を指先で突いて様子を伺ってみたが、新は何も言わなかった。
仕方なく、横になって俺に背中を向ける新の隣に座り、しばらく泣きじゃくる新の背中を撫でていた。
「泣くなよ…」
「……グズっ……いつもは…泣け、って…言うくせに…」
「っ…あれはな…またこれとは違うんだよ…」
違うってなんだよ俺の阿呆が。
けど、まじで新に泣かれるとは思ってなかったから、こんな風に急に泣き出されると調子が狂う。
でも悪い気はしない。泣くって事は何かしらで、何かを溜め込んでたって事だろ?我慢されるよりはずっといい。
え……それかやっぱりあれか?俺が意地の悪い事を言ってしまったのか?やばい今回まじで自覚ねえ…
「……しろ…」
「え?」
「膝枕っ……しろ……」
「膝枕?」
「…ん……命令だ…」
「………」
何が一体原因なのか、先程までの自分の発言について思い出していると、新は俺の服を掴んでそう言ってきた。
「…ほ、ほら」
顔は伏せたままだったからよく見えなかったけど、座り直して膝をポンポン、と叩いてやると、新はゆっくりと頭を俺の膝の上に乗せてきた。
「膝枕が命令って…」
もっと凄い事を命令してくると思ってたのに。
「機嫌直った?」
「別に機嫌悪くねえ……」
「え…じゃあなんで泣いたんだよ」
「………お前が…………から」
「俺がなに?」
小声でぼそりと呟いた新の言葉は、上手く聞き取れなかった。だけど聞き直すと、新の耳が瞬時に真っ赤になったから、多分これから新が言おうとしてる事は素直な言葉なんだと思う。
「お前がっ……今更…嬉しい事……言ってくるから…」
「……………」
きっとその言葉を聞いたら自分も嬉しくなるんだろうと思ってたけど、それよりも嬉しいと思ってしまったのは、新が今回泣いた原因がようやく分かったからだった。
「なに?じゃあ嬉しくて泣いたのか?」
「っ、お前もう黙れ‼︎…別に泣きたくて泣いたんじゃねえ‼︎これはあれだよ‼︎……あ、汗だ汗‼︎」
「ぶっ、汗ってお前……」
「笑うな‼︎」
「っごめんごめん…」
咄嗟の言い訳がお決まり過ぎて笑ってしまった。
そしたら新に盛大に怒られたので、ここらで笑いを抑える事にした。
「…………」
「………………」
しかし驚いたな。
自分の中でも一つ新しい発見をしてしまった。
「眼鏡……次の命令だ…」
「……なに?」
無理矢理泣かすのも好きだけど、さっきみたいに嬉しくて泣かれるのも結構イイな。
「ぁ、頭……撫でろ……」
「…………」
こうやって、甘えてくれるのも
「……ん」
悪くないな。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
491 / 617