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見境ない
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「成海ぃー‼︎帰ってるんでしょ返事くらいしなさぁーい‼︎」
最悪な事を忘れてしまっていた。
「眼鏡っ…呼ばれてるぞ…」
「ああうん、いいよ別に」
「けど……」
しかもついさっきまで新と母親の事話してたのに、こんなタイミングでまさかあの人が帰って来るなんて。
「おい眼鏡っ、呼んでんのお前のお袋さんだろ⁉︎」
咄嗟に新を布団の中へと押し込める。いきなり取った俺の行動に新は抵抗してきたけど、そんな新にお構いなく、掛け布団を大きくはぐり新へと被せた。
「てめっ、何すんだよ‼︎」
「悪いけど少しの間隠れてて」
「はぁ?てめえ人の親には挨拶させろとか言うくせになんなんだよ‼︎俺にも挨拶させろ‼︎」
「いいから隠れてて‼︎」
「わぷっ」
「あら、誰か来てるの?」
「…っ‼︎」
部屋の扉が開き、あの人の声がすぐ後ろで聞こえた。ギクリと肩を震わせ、ゆっくりと振り向くと、「布団の上でナニしてるのぉ〜?」と人をからかう様な声でそう言ってくる。
新の頭が半分布団から覗いてる上に、俺が跨ってる状態。本当に最悪な時に帰ってこられた。
「見慣れない靴があったから誰かと思ってたけど、お友達?」
「あぁ……うん」
布団から顔を出そうとする新を押さえつけて、適当に返事を済ませておく。
「珍しいのね。あんたが友達を家に連れてくるなんて。というか本当に何してるの?」
母さんはどうやら部屋から出て行くつもりはないようで、俺の下でジタバタと暴れているのが一体誰なのか気になるらしい。
「なんでもいいだろ。つか早く出ていけよ」
「ちょっと何その言い方。可愛くないわね」
母さんは面白くなさそうな顔をして、ドアに背をつけ腕を組んだ。目をこらし俺の下にいる奴の事を見ようとしてくるが、背中で隠しそれを阻止する。
「おいまじで出て行けよ」
「友達の前でその口の利き方はやめなさい。母さん、あんたの下で苦しそうにしてる子に挨拶したいだけよ」
ふん、と何を威張っているのか全く分からなかったが、母さんは胸を張った。
「眼鏡てめっ」
「黙って」
今日、新がうちに来たいと言った時に少し引っかかるものがあった。
新はそれを、“自分が家に行く事を嫌がられてる”という様に解釈してしまったようだか、そうじゃない。
「成海、その子一体誰なの?」
今日、この人が家に帰ってくるから、どうしようかと悩んでいたんだ。
「いい加減離せよ眼鏡っ‼︎」
「ちょっと成海‼︎お友達いじめちゃ駄目でしょ‼︎」
母さんの足音がすぐ後ろで聞こえた時、新がガバリと布団から勢い良く顔を出した。
新が顔を出すと少しの間沈黙が流れ、最悪だ。と俺はため息を吐きながら頭をかいた。
新は布団の中が苦しかったのか、少し息が上がってたけど、それでも母さんと目が合うと小さな声で「お、お久しぶりです」と言った。
「あの、俺…」
「あああぁぁああん‼︎‼︎あなた以前成海のお見舞いに来てくれてた可愛い後輩ちゃんよね⁉︎⁉︎」
「へっ⁉︎」
案の定、想定してた反応を見せる母さんは、勢い良く新に飛びつく。
それを俺は止める事なく、むしろ全てを諦めベッドからはけた。
「もう一度会いたいと思ってたのよぉ〜、相変わらず小さくて可愛いわねぇ〜」
「あのっ、ちょ近っ」
「んもぉ〜、来てるのが後輩ちゃんならもっと早く言ってくれればよかったのに‼︎」
「ちょ、ちょ苦しいっす……ゔっ」
ぐりんぐりんと新の首元に抱き着き、頬を摺り寄せ新の髪を捏ねくり回すその光景を俺は呆れながら眺めていた。
「会うのはこれで二度目だけど、きちんと挨拶するのは今日が初めてね」
やがて、母さんが新を捏ねくり回す動作がひと段落し、体を離して母さんは嬉しそうな声でそう言った。
「渋谷……新です………えっと…一応めが…成海先輩と同じ生徒会に所属してます」
新も、ベッドの上で正座になり、母さんに向けてペコペコと頭を下げながら、遠慮気味な口調で挨拶を返した。
そんな初々しい反応を見せる新を見て、「ああん、畏まっちゃって可愛いっ」なんてテンションを上げる自分の母親を見ると、また大きなため息が出る。
母さんの食いつき様に、救いと戸惑いの視線を俺に向ける新だったが、『今日俺がお前を家に連れてくるのを少し躊躇した理由がこれで分かっただろう?』と目で返してやった。
そう。俺はこの人と新を会わせたくなかった。
理由は単純だ。
「上城杏奈(かみしろ あんな)、成海の母です。仲良くしましょっ❤︎新くん」
この人は、可愛いと思ったものは、物でも動物でも、そこらへんに咲いてる雑草でも見境なく愛でる。
前に一度、俺が風邪を引いた時新が見舞いに来てくれて、その時母さんは新の事を気に入ってしまっていたのだ。
つまり、母さんが居る時に新を家に連れてきたら、それはもう新にベタベタとうざいほど付き纏い始める。
「いい加減新から離れろよ」
「もう少しだけいいじゃないのぉ〜」
「あ、え、とあのっ」
再び新に抱きつき始める母さん。
助けてくれ。とこちらに手を伸ばす新を見て、俺は今日一番大きなため息を吐いた。
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