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恐ろしい
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あんな面白い出来事があった後、部屋に戻ると鬼の形相をした新に腹を思いっきり殴られた。
どうやら新があの人に向け、俺との事を半泣きになりながら告白したのを俺が茶化したから腹を立てているらしい。
別に茶化したつもりはなかったと言えば嘘になるけれど、まさか、新があんなに必死になるなんて思いもしなかったから。つい。
「風呂、先に入ってくれば?」
「……俺は一番最後でいい」
人の腹を思いっきり殴った後は不貞腐れて布団の中に逃げ込んでる。丸くなった布団の隣に腰をおろし、軽く手を添えると新が布団から顔を出した。
「お前……分かってたんだろ」
「なにが?」
「とぼけんな……お袋さんが俺の反応見て楽しんでた事だよっ」
新は顔を真っ赤にして、目を吊り上げ、足でゲシゲシと横腹を攻撃してくる。
「あの人はああいう人だよ」
「……お前が俺の事、ちゃんと紹介してくれるんじゃなかったのかよボケ」
「…………」
そうだよ。俺はあの時ちゃんと自分の口からお前との事をあの人に説明しようと思っていた。
「そうだな。でもほら、俺の出番必要なかったみたいだし」
「けっ」
あの人にお前との事を伝えても、反対なんかしないと分かっていたから、俺はお前と付き合ってる事さえ言えればそれでよかったんだ。
そうしたらきっと、お前も安心すると思ったから。
でもお前はすごいよ。ちゃんとあの人にあそこまで言えたんだから。
「ほら、先に風呂行ってこいよ」
「…………」
「あの人がさっきは意地悪してしまったから、新には一番風呂に入ってほしいんだと」
「……………」
そう伝えると、新はツンとしたまま布団から起き上がり、「俺まだ怒ってんだからな」と言い残して部屋を出て行った。
部屋から出ると、あの人と鉢合わせしたらしく、あの人の甲高い声と悲鳴にも似た新の声が扉越しに聞こえてきた。
「はぁ……」
大方、あの人にまた飛び付かれて頬擦りでもされたんだろう。
「成海ー、入るわよー」
その後すぐに部屋の扉が開いた。
いつもはノックすらしないのに、今日に限ってご機嫌な声で入室の合図をした母さんは、にやけた顔つきで部屋の中へと入ってきた。
「なに?なんか用?」
「あんたねぇ、本当に可愛くないわね。用がないと入ったらいけないの?」
「用がないのに入ってこられたら邪魔。それに、可愛いとか思ってほしくないから別にいい」
部屋の中を巡回する母さんを横目に、ベッドの横にある机の上に置かれた書物を取り、目を通す。
あまり口をききたくないから、なるべく早く出て行ってほしいのに、あろう事か母さんは俺の隣にドーンと腰をおろした。
「んふふ、懐かしいわね」
「……なにが?つか近い」
コテンと肩にもたれかかってこられ、本当に鬱陶しいと言うと、脇腹にチョップを入れられてしまった。
「……おい、出てけよ」
チョップを繰り出した当の本人は、涼しい顔をして立ち上がり、俺の机を物色し始める。
「あらぁ〜、ほんとに懐かしい物があるじゃない」
「?」
整理された机の上に並べられた本。そこからなにを見つけたのか、母さんは一冊の本を手に取り、それを持って再びベッドに腰をおろした。
「アルバムなんて見るのいつ振りかしら」
「……………」
持ってきたのは、本ではなくアルバムだったようだ。
自分でもそのアルバムを見るのは久し振りだった。ずっと机の片隅に放置しておいたから少しホコリを被ってしまっている。
アルバムなんて見る柄じゃないから、すぐ母さんに「仕舞ってこい」と言ったがオール無視された。
「ふふっ、見て。こんなに成海は小さかったのよ」
「当たり前だろ。その頃まだ3歳だぞ」
「3歳のあんたいつも泣いてばかりで可愛かったのに〜」
からかう様にそう言いながら肘で小突かれる。
「……ガキだから泣くだろ」
「そうね。今は全く泣かなくなったからつまらないわ。大きくなって、口数も減って悪態はつくし。おまけに中学生になった途端に毎度違う女の子を家に招くような軽い男になるし」
「…………」いつの話ししてんだよ…
「ほら、小学生の頃。この写真みたいに樹くんと二人で仲良く家でパズルしてる方が何百倍も純粋で可愛かったわ」
「……………」
指をさしたその写真。小学生の頃、樹と俺の家でパズルをしてる写真。
いつの間に撮ったんだと今でも思う。
写ってる俺と樹の顔は真剣そのもので、その写真の隣には、パズルが完成してバッチリカメラ目線を決め喜んでる樹と、その隣で無表情でピースサインをしてる自分の写真が載せられている。
「あんたカメラ向けると無表情になったけど、この時パズルが完成してとても喜んでたわよね」
「〜〜っ」
もう頼むから早くそれ見て出て行ってくれ。
我ながら、小学生の頃唯一ハマっていた物がジグソーパズルだった。中々完成しない時は樹を呼んで、外で遊ぶ事も無く二人で淡々とパズルをしていた。
俺の黒歴史だ。今じゃ考えられない。
「樹くんは元気?」
「ああ、元気だよ」
「そう」
本当に、どうしてあいつと仲良くパズルしてた時の事を今更思い出さなくちゃならないんだ。
「新くんは樹くんともお友達なの?」
「まぁ、そうなんじゃない?つかなんで?」
パタンと母さんがアルバムを閉じる。
その拍子に視線を向けると、ニコニコとした顔で母さんがこちらを見ていた。
「だってほら、昔からあんたと樹くんは好きなタイプが似てたでしょ?」
「は?」
「もしかして、新くんを巡ってケンカとか」
「してねえよ」
咄嗟にそう言ったが、さっきこの人が言った事にギクリとしてしまった。
ふざけた事言ってんじゃねえと睨みを効かせると、ニマニマした顔で俺を挑発してくる。
「あらぁ〜そう」
「………」
「ふふっ、睨まないでよ。可愛い冗談じゃない」
この人の勘の鋭さは昔から変わらない。
正直なところ図星だったが、なんとか誤魔化し、まだ俺を見てニヤニヤしてる母さんからアルバムを奪い取った。
「もういいだろ。出ていけよ」
「せっかく久し振りにこうして話しが出来るんだからもう少しいいじゃない」
「新が戻ってくるだろ」
「あら、そうね。邪魔しちゃ悪いものね❤︎」
新の名前を出すと、母さんは急に態度を変え、パチリとウインクを決めてようやく扉の方へと歩き出した。
「成海、分かってると思うけど、あんたも本気なら新くんを傷つけちゃダメよ?あんたは昔から好きな子いじめる癖あるんだから」
「分かってるよ」
最後までうるさい母さんの背中を押してやっと部屋から退散させる事が出来た。
「……はぁ」
疲れた。この数分の間でこれ程労力を使うとは。
「…………」
再度ベッドに腰をおろし、そのまま寝そべった。
そして先程までの事を思い出して、少し考えてみる。
「似てるのか?」
まず、頭の中を駆けずり回るのは、あの人が言った『俺と樹の好みが似てる』という言葉だ。
「………似てねえだろ」
確かに小学生の頃、俺と樹は二人して毎日何故か保健室に通っていた。目的は保健室の先生に会う為。
今思えばあの先生は色白でかなり巨乳だった。
そりゃ男なら胸にときめきを感じるのはごく自然な事だ。多感な時期だったしな。
今は別にまな板ぺったんこの胸の方が魅力を感じるけど。
でも樹は俺以上に保健室に通ってたから、俺の中では年上巨乳好きだと認識していた。
まぁ、俺の思い込みだったようだけど。
「…………」
母さんが言った様に、記憶を辿れば俺と樹は似た様な行動を取る事が多かった。
だからと言って、男を好きになって、しかもお互い同じ人を。……ってとこをズバリと当ててくるとは……
「はぁ………」
母親というものは心底恐ろしい。
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