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くだらねえ話がしたい
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赤くなっていく空を眺めながら、ふと考えてみた。
もしも俺が、あのまま不良の道を辿ったとして、秋人と同じ高校に進学したとしたら、きっと会長や眼鏡、大崎には出会ってなかった。
もしも俺が、不良を更生して今の高校に進学したとしても、生徒会に入っていなかったとしたら、きっと会長や眼鏡、大崎達と関わりを持つ事はなかった。
もしも俺が、眼鏡に強引に生徒会に誘われなかったら、会長を好きになる事はなかった。
会長を好きだった頃の俺がいなかったら、今の、眼鏡が好きな俺はいなかった。
生徒会という組織は、俺達の接点であって、きっかけでもある。
それがあったから、みんなと知り合えたし、楽しいだけじゃなかった時期もあったけど、思い出だって作ることが出来た。
アルバムには、俺が知らなかった2人の姿が写っていた。
前に、眼鏡の家でこっそりあいつのアルバム見た事あったけど、その頃と変わらず、眼鏡と会長は2人一緒の道を歩いてきてる。
それ程2人は仲が良いという事なのか、たまたまの偶然なのか。
どっちにしろ、俺はこれからの2人を前より近くで見ていけたらいいなぁ。
写真は、自分がそこにいたという事を証明してくれるものだって俺は思うんだ。
会長が今年からアルバムを渡してくれるって言って、めちゃくちゃ嬉しいと思った。
会長と眼鏡が生徒会を引退しても、今の生徒会メンバーがそこにはいたという証明が出来るし、写真はずっと残るものだから。
「へへっ」
「さっきから何ニヤニヤしてんの?」
隣を歩く眼鏡の顔を見て、俺はまたニヤリと笑ってみせた。
「べ、別に笑ってねえけど?」
「……ふーん」
「…つか、てめえそろそろ髪切れば?」
「あ?髪?なんで」
短髪時代のてめえの写真を見てやったぜ。なんて言ったらどう返してくるかな。
「これからもっと暑くなるんだぞ。その髪の長さじゃ暑いだろ」
「別に暑くないよ。それに切りに行くのめんどくさい」
「俺が切ってやろうか?」
「それは遠慮しとくわ」
しれっとした顔で眼鏡は俺の前に出て歩みを進める。
もう見慣れてしまったこいつの後ろ姿、前より伸びた眼鏡の真っ黒い髪が目の前でふよふよと揺れてる。
ふと、自分の前髪を触ってみる。
俺も髪は伸びたけど、今度散髪に行くし、髪も染め直しに行く(金髪に)。俺は昔から女顔って言われて馬鹿にされてきたから、黒髪だと更に女顔が目立ってしまう。
それが嫌でいつも金髪にすんだけど、眼鏡は自分の容姿についてそんなこだわりもないだろうし、むしろ何もしなくてもイケてる奴だ。だからこそ髪切りに行くのをめんどくさがってるこいつがなんか腹立つ。
「お前って結構モッサリしてる奴なんだな」
「モッサリ?」
「だって、髪は伸ばしっぱだし、いつまで経ってもコンタクトじゃなくてメガネ掛けてるし。元が良いんだから普通に見た目もっと気ぃ使えばいいのによ」
「別にいいだろ。コンタクトはまじで嫌いなの。それに買い替えとか、付けて外して洗浄して保管するあの動作がめんどくさい」
「めんどくさがりめ」
「めんどくさがりですよ」
一応こいつはそのお嫌いなコンタクト様を持ってるみたいだが、それを使用する時は滅多にない。
恐ろしい程に度が強いこいつのメガネは、視力の良い俺が付けたらきっとマーブル模様の世界が見えてあっという間に酔ってしまうだろう。
「あと、髪短くするとくせが直んなくなるから」
「お前地味に天パだよな」
「くせっ毛だ」
「それ天パじゃねえの?」
「くせっ毛だよ。そんな髪クルクルしてねえだろ」
「ぶはっ、まぁクルクルはしてねえけど」
「だからくせっ毛だろ」
「やべえゲシュタルト崩壊しそう……」
「くせっ毛くせっ毛くせっ毛」
「ぁぁぁあ、やめろ‼︎このモッサリ眼鏡‼︎」
交差点を目の前にして、こんなやり取りをしてる俺達は、きっとはたから見れば仲の良い男子高校生。
「じゃあ、また明日な」
「おう」
久しぶりに眼鏡とこんな会話をした気がする。
普通に、ダチ同士でするようなそんなたわいの無い会話。
「眼鏡。やっぱ髪、切んなくていいぞ」
「どっちだよ。まぁそう言ってもらえると助かるわ」
分かれ際に、眼鏡の背中へとそう投げかけると、眼鏡はクスリと呆れたように笑ってそう返した。
その顔を見た瞬間、胸の奥がチリリと痛んだ。
このまま分かれるのが惜しいと思った。
泊まりは明日からだって約束したけど、今日から泊まりに来てもらおうかな。
一緒に晩飯食おうって、今から誘っても大丈夫かな。
今夜放送されるすっげえ面白いバラエティ番組を、あいつが好きなココアでも飲みながら、ベッドでまったりしたり。
さっきみたいに、眼鏡とくだらねえ話がしたい。
別に明日になればそれが出来るんだろうけど、何でだろう、今、一緒にいたい。
「……っ、成海‼︎」
だって、このままあの家に帰ったら、この思いが、もっともっと俺を寂しくさせる。
「どうした?」
だって、あの家にはなにも無いから
俺を見てくれる人も、写真も、アルバムもなにも無いから
「や、やっぱ……今日から泊まりに来い…」
楽しい思い出が出来る程、1人になったとき虚しくなる。関わる人達が増えると、1人になったとき寂しくなる。
「お前はほんとに気分屋だな」
「うるせえ」
空っぽの家に1人で帰るのが、こんなにも嫌だと思う日が来るなんて思いもしなかった。
「買い物して帰る?夜ご飯どうしよっか」
「玉ねぎなら家にいっぱいあるぞ‼︎」
「玉ねぎねぇ…」
俺が今感じたものを聞いてくれる人はあの家に居ない。そんな家、帰りたくもない。
「んだよ、玉ねぎ嫌いなのかよ」
本当に、母さんは俺の事なんてもうどうでもよくなってしまったんだろうか。
俺がこいつの事を話したら、あんたはなんて言ってくれるだろうか。
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