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もっかい
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俺の中の何かが、ぷつんと音を立てて切れた気がした。
新の後頭部に手を回して、引き寄せて……だけどなんとかこの時はセーブが効いた。
咄嗟にだったけど、引き寄せた新の顔を俺の首元に留まらせた。
「……お、おい…」
「…………」
危なかった。危うくキスしてしまうところだった。
「…お前…なんか心臓の音すげえぞ」
「………まぁね」
こいつは多分、なんで俺がこんなにドキドキしてるのか分かってない。
きっとさっき俺がキスしそうになった事にも気付いてない。
「お前が鈍感で良かったわ」
「は?」
ほっとため息を吐くと、新が俺の顔を見上げてくる。
自分から提案したゲームなのに、もっと別の事にすれば良かったなんて思ってしまった。
だってこいつが、思った以上に粘るから。
でも新も我慢してるのか。ゲームって言葉すげえな。
子供じみた、ただの遊びなのに。自分の首を絞めてしまった。
「新、キス…してもいい?」
でも、もう俺が負けてもいいかな。
さっきはセーブ効いたけど、付き合ってるのにキスしちゃいけないゲームとか、地獄的ルールを作り出した奴が急に憎らしくなってきた。こんなゲーム要らねえな。
それに、案外我慢出来ないのは俺の方かもしれない。
「…顔上げて」
何回も見てきたこいつのこういう顔。
いきなりじゃなくて、こんな風に俺からゆっくりとキスをするのは初めてかもしれない。
「………」
「…………ん…」
唇が触れるだけの可愛らしいキス。
なんだ。まだ俺たちは全然慣れてない事じゃん。
「……お前の負けだぞ…」
「……うん」
唇が離れると、新は顔を真っ赤にして俺に抱き付いてきた。
俺も、顔がやたらと熱くなる中、新を抱き締めた。
「やっぱお前………可愛いな」
「可愛いとか言うな…嬉しくねえ」
「嘘。絶対嬉しいだろ」
「……お前のその自信はどこから来てんだよ」
「さぁ……どこからだろうな」
分かった事。俺はこういう雰囲気には慣れてない。
新も多分、慣れてない。
俺は割と本心から新の事を褒めたりする時はあったけど、茶化しながらが多かったし。
急に小っ恥ずかしくなってきた。
「…あー、もう無理………してもいい?」
「……んなこと聞くな」
付き合えば、互いの存在がいつしか当たり前になって、気持ちが疎遠になっていく事があるって聞いたことあるけど、全然そうじゃないじゃん。
まだ可愛らしくて、初々しい顔も出来るもんなんだな。
「なぁ新……」
多分、俺はお前の知らない顔もまだいっぱいあると思うけど、お前だって俺の知らない顔いっぱいあるぞ。
「もっかいキス、しようか」
新の顔を引き寄せて、もう一度キスをする。
そしてこの時の俺は心に誓った。
絶対もう、キスしちゃいけないゲームなんてしないと。
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