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口を開けば
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は?
「最近家に帰ってもあんた居ない事が多かったから。相変わらずね…ほんとに」
「……………」
「こっちとしてはそれでも良いんだけど。無駄な家事やあんたの子守りもしなくて済むし」
「………」
滅多に家に居ないのはそっちだろ……家事も、俺の面倒見んのも、「おかえり」って嬉しそうに言ってたのはそっちだろ………
「学校も楽しいんですって?上手くやってるみたいで何よりよ。あの頃みたいに何度も学校側に頭を下げに行く事も無くなって正直気が楽だわ」
………黙れよ
「その様子じゃ別の遊びを覚えたみたいだけど。まぁ高校生は多感なお年頃だから仕方ないわよね」
……何も今の俺から聞こうとしないくせに、何も知らねえくせに、あの頃の俺をいつまでも見てんじゃねえぞ……
「……まったく。一体誰に似たのかしら」
「っ……」
あの日から俺に対しての態度や物言いがこんな感じなのは分かってた。
その日から今まで顔を合わせる度に、嫌味のような事を言われてもずっと我慢してた。
あの日まで、父親が居ない他とは少し違った、それでもそんな事情を抱えたどこにでもある母子家庭で育った俺は日々の八つ当たりとしてこの人に罵声を浴びせて、父親が居ない事をこの人のせいにして、唯一俺を可愛がってくれてたこの人から背を向けて、責任や自制を知ろうとしなかった自分。
「……俺だってうんざりだ」
どんなに小さな事でも、すぐに腹が立ってしまって、大声を張り上げてこの人を傷付ける様な事を散々言った自分。
「けど、ちゃんと話しくらい聞けよ……」
挙げ句の果てに、この女みたいな顔と、中々大きくならない自分の身体の事までも全部あんたのせいにした自分。
事あるごとに、絶対に俺を嫌いにはならないと決め付けていた母さんに全部ぶつけてた。
この人は何も悪くないのに。
「………頼むから」
俺だって、そんな自分にはもううんざりしてる。
「……もうそんなもん持って帰って来んな」
テーブルの上に並べられた数枚の名刺。
それをあんたが家に持って帰ってくる度、それを毎回テーブルの上に並べて酒を傾けるあんたが…
「俺が家に帰って来る時間には、ちゃんと飯作って待っててくれよ…」
母親だったあんたが、別の生き物に見えてたまらなかった。
「…俺だって手伝いくらいするから…」
あの日、母さんが過度の疲労で倒れ、そして退院したあの日。
家に帰って来た母さんがまずやった事は、自室にこもり、鏡と向き合い、真っ赤な口紅を塗る、その行為。
何かに取り憑かれたかの様に、何かを思い出したかの様に、自分と、自分を見てくれる相手を探して毎夜家を抜け出し始めた母さん。
……このままじゃ駄目だと思った。
気付いた時には、俺の知るあんたはもう居なかった。
「学校サボったり、喧嘩とかももうしてねえし…」
「どうだか」
「………」
だから変わろうと思った。ちゃんともう一度、俺を見てくれるように、ちゃんと俺があんたを見てやれるように、いい加減な事はもうしないって、あの日から自分にそう誓って、満点取ったテスト用紙を馬鹿みたいに束ねて、あんたの帰りをずっと待ってた。
良い子になろうと思ったんだ。
変わってしまったあんたに何を言ってやったらいいか全然分かんなかったから、頑張ってる証を見せればきっと前みたいに大袈裟に褒めてくれると思ったんだ。そんなあんたを俺も今度は素直にちゃんと受け入れようと思ったんだ。
「人はそう簡単には変わらないものよ」
嗚呼、でももう限界だ。
今の俺が何を言おうが、この人はそれを嘘だと捉える。
「……だったら…」
「っ⁉︎」
ゆらりゆらりと、母さんの目の前まで歩く。
「だったら、もういい」
人はそう簡単には変わらないのなら、どうしてあんたはそんな風に変わってしまったんだ。
「ちょ……なに…?…」
ガタンと椅子から立ち上がり、警戒心を見せた母さんの目に映る俺は、一体どんな顔をしてんだろう。
“私と同じ様に”
「……てめえと一緒にすんじゃねえぞ」
「っ‼︎」
腹の底に溜まった、どうにもならない思いがむせ返り
俺は拳を振り上げた。
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