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電話の相手
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下校を知らせるチャイムが鳴り響く中、俺は校門に寄りかかりぼぅっと空を見上げてた。
今日一日、会長が言った様に本当に俺はずっと上の空だ。
「はぁ……」
無気力なため息が口から零れる。
正面玄関の方を向いて、他の生徒が玄関口から出てくるのをただひたすら眺めた。
「先帰れって……」
実は、眼鏡はまた何か用事があるらしく、授業が終わるとすぐに学校を出て行ってしまった。
眼鏡不在の中、今日生徒会でやらなきゃいけない書類整理を済まして、さて俺も帰ろうかと思ったところなんだが、どうも足が進まない。
帰れって言われたけど、今俺が帰る場所は眼鏡の家で、いくらあいつの家だからってあいつがいないのに先に帰るなんてできない。
「電話も出ねえしよ…」
用事とやらが終わるまで待ってると伝えようと何度か電話をかけてみたけど音沙汰無し。
「はぁ……」
またため息が出る。
さすがに、眼鏡が用事を終わらせて家に帰ったならそれこそ俺に電話してくるはずだ。
けど、眼鏡が学校を出て2時間は軽く経った。それなのにあいつからなんの連絡もない。
「あいつ…最近何してんだよ」
この頃、それこそ先週の土曜日。あの日から眼鏡は『用事がある』って言って一人でよく出掛ける様になった。進路関係ではないらしい。
大事な事って言ってたけど、俺にも言えない様な事なのか?
【〜〜♪〜〜♪〜〜♪】
「っ?」
突然、手に持っていた携帯が鳴り響く。
瞬時に眼鏡の事が頭に浮かんだけど、画面に表示されたのは秋人の名前だった。
「もしもし?」
少しだけ残念に思いながらも、電話に出る。
『新‼︎聞いてくれよ‼︎』
「っ‼︎」
電話に出るなり、馬鹿みたいに発狂した秋人の声が耳元でキン、と聞こえ思わず携帯を少し遠ざけてしまう。
「ど、どうしたんだよ…」
『春人が俺の事嫌いだって言ったんだ‼︎』
「は?」
次の瞬間、秋人は電話越しで大号泣し始めた。
『ゔっ……実はよぉ…春人が忍の事気に入っちまって……』
「おう…」
それがどうしたんだ?と聞くまでも無く、秋人はおいおいと泣きじゃくりながら話しを続ける。
『ぐ……っ、んで…忍はにいちゃんのだから駄目だって言ったらよ……春人が…俺の事嫌いだって…』
「……ほ、ほう…」
それで大号泣してるのか。と少し肩の力を落とす。
昼間大崎は嬉しそうにこの話しをしていたけど、秋人にとっては重大な事件なのかもしれないな。
にしても泣くか普通……
「はぁ……情けねえな。んな事で泣いて電話なんかしてくんなよ」
『だっ‼︎…だってよぉ……俺の可愛い弟が……忍を好きになっちまって…春人も忍も俺は大事なんだ……でも…いくら弟の為だっつっても…忍は譲れねぇし…』
「お前さぁ、春人はまだ餓鬼だろ?そんなに深く考えるこたねーよ」
『でもっ……もしこのままずっと春人が忍の事好きだって言ったらどうすりゃいい⁇』
「はぁ?」
ズビッ、と秋人が大きく鼻水を啜る音が聞こえる。
『春人だぞ⁉︎あの天使の様な俺の弟が、もし5年後、10年後、同じ様に忍に告白でもしてみろ‼︎俺、勝てる気がしねぇよっ……』
「……………」
……あぁ、駄目だこいつ…
ただでさえ馬鹿なのに兄弟馬鹿がプラスされて手の施しようがない。
うぁぁぁぁぁあ、っと電話越しに更に大号泣をかまし始めた秋人。好きな奴と自分の弟、どちらかなんて選べない。と泣き叫んでる。
「大崎は嬉しいって言ってたぞ?」
『っ…ふぇ?』
秋人は馬鹿だから、本当の事知ればいつもの調子を取り戻すだろ。
『し、忍が……なんか言ってたのか?』
大崎には言うなって言われてたけど、まぁ許せ。
「おう、二人に好かれて嬉しいって言ってた」
『……っ…』
「あと、いつかお前や春人達と家族になりてえって言ってたぞ」
『か、家族っ⁉︎忍がそう言ったのか⁉︎』
パッ、と秋人の声が明るくなった。
単細胞馬鹿はもう涙も止まっただろう。
「だからお前がんなウジウジしてたら駄目だろ。どっちも大事ならどっちも大事にすりゃ良いじゃねえか」
『……そ……そうだよな…そうだよな‼︎ハハっ』
やっとまともな秋人の声に戻った。
全く、殴られても喧嘩に負けても泣きもしなかったのに、好きな奴の事になるとどんだけ涙脆いんだよこいつは……
『よぉし‼︎にいちゃん負けないぞぉ‼︎』
あと、気持ちの切り替えも早い。
「はぁ……話しはそれだけか?」
けどやっぱ、秋人と話しすると気分が晴れると言うか、すっきりした様な気分になれる。
悩まなくていい事を必要以上に悩む秋人見てると冷静にもなれるしな。
『あ、いや……実はもう一つお前に聞きたい事あってよ』
「聞きたい事?」
もやもやとしていた胸の重みが軽くなったと思った時、秋人は躊躇いながら言った。
『あのさ……成海とお前のお袋さんってさ……』
「え……」
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