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強いて言うなら
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随分と日が暮れてしまっていた。
用事があると伝え出てきたはいいが、もう少し時間がかかりそうだ。何度か携帯電話が震えていたけど、相手が誰なのか予想はついていた。
新には悪いけど、まだ携帯を取るわけにはいかない。
「あなた、高校生でしょ」
「ええ」
「こんな事……バレないとでも思っているの?」
「さぁ……でも、貴方が言わなければ大丈夫なんじゃないですかね」
「……………」
薄ら笑いを浮かべると、ベッドに腰を掛け腕を組み、鋭い目付きで俺を見てくる。
ブレザーを脱ぎ、ネクタイを緩めると、俺もベッドに腰を下ろした。
「近寄らないで」
「随分と警戒されてるんですね」
「…………」
横目で視線を向けると、ふいっと顔を背けられる。
まぁそれも仕方ないか。と俺はベッドの横にある間接照明に明かりを灯した。
ブレザーの胸ポケットから一枚の名刺を抜き取り、間接照明のそばに置く。
「1時間よ」
名刺に目を落としていると、後ろから鋭い声が聞こえた。
「安心してください。俺も延長なんてしたくないので」
「…………」
そう言ってみせると、ぎろりと睨みを利かされまたすぐに顔を逸らされた。
彼女との距離は手を伸ばせば届く程度のもの。こちらを向かせるのは簡単だけど、それじゃ意味が無いよな。
「用があるならさっさとして頂戴」
「用、ですか」
「息子を追い出した私に嫌がらせをしに来たってわけじゃないんでしょう?」
どう話しを切り出そうかと考えていると、彼女はこちらに体を向け、そう問いかけてきた。
相変わらず鋭い目付きだけれど、思いの外落ち着いている様だし、これならまだまともに話しが出来そうだ。
「嫌がらせなんてとんでもないですよ」
「嘘ね。こんなところに呼び出して何を言っているの」
「いやいや、俺は貴方を買っただけですよ。こうして誰にも邪魔されない場所で、二人きりでゆっくり話しが出来るようにね」
「……………」
「強いて言うなら、俺は貴方の客ですよ」
「………っ…」
そう、俺は彼女を買った。
1時間という時の中で付けられた彼女自身の値段。
きっとあいつが知れば悲しむ事実を今、俺は目の当たりにしている。
先週の土曜日から、俺は薄らと脳裏に残っていたあの名刺を頼りにこの人を探していた。
確信があったわけではないけれど、彼女自身が客なのではなく、客を取る側だとしたらと考えると、いくら店々を回っても彼女という客を見つけられないわけだと合点がいった。
ならば、話しは早い。
その後彼女の居場所を特定するのなんて簡単だった。
手当たり次第、特定された街内の店のホームページを漁れば、簡単にその人物は浮上してくる。
「サキさんは、俺の事恨んでますか?」
「……は?」
彼女は、この業界ではそう名乗っているらしい。
俺の質問に対し、より一層鋭い目付きを返してきた彼女はその後、黙り込んだ。
「新には、“あの事”は言わないつもりなんですか?」
「……あの子の話しはしないで」
「その話しだと分かった上で来てくれたんじゃないんですか?」
「……………」
ゆらり、間接照明の光が揺れる。
彼女は顔に陰りを見せ、シーツをぎゅっと握り締めていた。
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