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情けない
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街に行きいくら探しても眼鏡を見つける事は出来なかった。連絡しても反応も無し。街のホテル街を走り回ってみたけど、見つかるはずもなかった。
心に靄がかかった状態のまま、俺は眼鏡の家の前で待つ事にした。その間、色々と考えてみたけど、やっぱりどうしても眼鏡が取った行動に納得がいかなかった。
あれから、衝動的に眼鏡の前から逃げ出してしまったけど、財布も携帯も、家の鍵も鞄の中だ。
上手くあいつから逃げれたのは良かったけど、行く当てが無い。
どうしようかと街灯にもたれかかり、頭を悩ませていた時、ふと秋人の事を思い出した。
「だからってなーお前、こんな夜中に押しかけてくるなよ」
突然家に押しかけられ、寝ていたところを俺に邪魔され不機嫌そうな顔をする秋人。
「悪りぃ。……けど、ここしか思い付かなくて」
「………………」
自分の常識の無さに呆れつつ、今晩だけ泊まらせてほしいと秋人に言うと、不機嫌そうな顔をしていた秋人は、ため息を一つ零し、にこりと笑った。
「冗談だよ。まぁ、こんな事になったの俺のせいかもしれねえし。こんな夜中に親友を野宿させるなんて出来ねえしな」
そう言うと、秋人は俺の目の前に腰を下ろした。
申し訳ない。ともう一度告げ、目の前に置かれたコップを手に取る。
「お茶の方が良かったか?」
「いや、水でいい」
水を一気に飲み干し、一息つく。
すると、秋人が険しい顔つきで口を開いた。
「………あのさ、ごめんな」
「…なにが?」
思いもよらなかった言葉に、少し唖然としてしまう。
「俺が変な事言わなかったら、その……」
秋人は眼鏡の事を俺に告げ口してしまい、それのせいでこんな事になってしまった。と続けて言った。
その後も、何度も謝られたけど、俺は笑って返した。
「なんでお前が謝んだよ」
「だって、俺が言わなかったら……」
「言ってくれて良かったよ俺は。このままあいつがコソコソと俺に内緒で今日みたいな事された方が嫌だったしな」
「……けど」
「気にすんなよ。別にあいつと別れたとかそんなんじゃねえんだから」
しょんぼりと肩を落とす秋人に向かい、そう言ってみせる。
でも、本当はこんな笑っていられる程、呑気に考えてはいられない状態だった。
「ただ、もし明日……明日も行く場所が無かったら、また泊まらせてもらえねえか?」
「それはいいけど……行く場所が無いって、お前自分の家にもあいつの家にも帰らないつもりか?」
秋人からの問い掛けに、ぐっと唇を噛む。
「今は、帰りたくない」
「……………」
「あいつの顔も…………見たくない」
これからの事、何も考えてないわけじゃなかった。
本当なら、気持ちの整理がついたら俺から母さんに話しをしに行こうと思っていた。
自分なりに、自分の家の事はきちんとケジメをつけようと思っていた。
でも眼鏡は俺に内緒で母さんと会っていた。
多分、それに関しては前々から動いていたはずだ。
「でもよ、別に自分の母親と付き合ってる奴がホテル行ったところでさ、やましい事とかあるわけ無いだろ?」
秋人が言った言葉で胸がざわつく。
やましい事なんてあるわけ無い。あいつに限って。
しかも俺の母親だぞ?そんな事絶対無いって分かりきってる。
あいつが母さんに会ったのも、きっと俺の事を話しに言ったんだ。
俺の為にしてくれてるってのは、なんとなくだけど分かる。
「そんな事分かってるけど……」
分かってる。何も疑ったりしてない。
「…………中途半端に嘘言われるのが一番嫌いだ」
「けどどこで会ってたなんて聞かれたら、ラブホだなんて恋人に言えねえだろ?」
「っ、そうだけど………」
違う。そんな事にイライラしてんじゃない。
中途半端な嘘なんて、今までいくらでもあった。
そんな事に俺は腹が立っているんじゃない。
「……まぁ、とりあえず風呂入れよ。明日も学校だろ?」
「…………」
「早めに仲直りしろよな。気持ち落ち着くまでうちに居ていいから」
秋人は立ち上がり、風呂場へと向かった。
自分の格好を見てみる。汗だくで、制服は汚れてしまっていてボロボロだ。
無我夢中であいつの事を探して、結果見つけられなくて情けなく家に帰り、あいつの家の前で帰りを待って、会ったら全部ちゃんと聞こうと思っていたのに。
何も、何も聞けなかった。
ちゃんと聞くはずだったのに、何も聞こうとしないまま逃げ出してきてしまった。
自分の家の事なのに、自分の事なのに、それからも逃げ出して、あいつにも背を向けて……
情けない自分が、一番腹ただしい。
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