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百面相
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「渋谷君、あの」
帰りのSHが終わると、もじもじと身をよじらせ遠慮気味な声でそう言いながら、大崎が俺の席にやって来た。
昼休みの出来事が頭から離れなかった俺はずっと放心状態で、大崎が声をかけてきた事に気付いたのは三回目に名前が呼ばれた時だった。
「あ、悪い……ぼけっとしてた……」
「………大丈夫?」
「えあ、な、なにが?」
様子が変な俺に対し、大崎が前屈みになって俺の顔を覗いてくる。
大丈夫?と聞かれた瞬間、胸がどきりとした。
「その……生徒会室行ける?」
「え、なんで?……」
不自然な質問に疑問を感じた。
生徒会室、なんて普通に行けるのに。どうしてそんな事を聞いてくるんだ?と瞬間的に思った。
「えっと……その…お昼休みに……」
「っ……」
また、どきりとする。
「ごめん……僕、見てたんだ……廊下で…その……」
「…………」
あいつが見せた態度と、自分が言った言葉。
別に気にしなくていい事なのかもしれないけれど、そんな些細な事で不安になってしまう状況を作ってしまった昨日の夜の自分。
その全部が頭の中に蘇る。
「せ、先輩はきっと大丈夫だよっ……えっと…多分先輩はちょっとだけ元気が無かっただけで…えっと……」
「はは、なんでお前がテンパってんだよ」
「っ…いえあの……ぼ、僕は……」
大崎は謎に両手をこちらに向けてブンブンと振った。その行動が面白くてつい笑ってしまいそうになる。
大崎は、俺の事励ましてくれてんのかな?
それにしてはすっげえ顔真っ青で汗やばいんだけど……大丈夫かこいつ?……
「ご、ごめんね……今日…ずっと渋谷君元気無かったから……少しでも元気付けてあげれたらいいなって思ったんだけど…」
今度はしゅんと肩を落とす大崎。
続けて、「緊張して励ます言葉を中々かける事が出来なかった」ともう一度謝ってきた。
「ははっ、なんでお前も秋人も悪くねえのに謝んのかねぇ」
「あ、秋人君?」
どうしてお前がそんな事で緊張してんだ。って、そう考えるとまた笑えてきた。
腹を抱えて大袈裟に笑ってみせると、大崎は顔を真っ赤にした。
「付き合ってると相手に似てくるって言うけど、それって案外本当なのかもな」
「ぼ、僕なんか秋人君の足元にも及ばないよっ」
「ふはっ、なんだよその言い方っ」
「だ、だって僕は…っ…あ、秋人君みたいにカッコよくないし強くもないしましてや人参やリンゴすらまともに切れない料理下手人間だしっ…」
少しからかってみると大崎の目がぐるぐると回り始めた。
何故か秋人の良いところ(?)を事細かく口にし出した大崎を見ていると、少し心が和む。
「でも、秋人みたいに俺の事心配してくれたんだろ?」
「…っ……それはだって……」
「だって?なんだよ?」
あれ、大崎と普通に喋れてる。
前はこんなに話したりはしてなかったよな?こいつ変にデリケートだし、話しかけたらすぐ俺から逃げたりしてたのに。
そう言えば、最近の大崎は本当に雰囲気が柔らかくなった。前に比べると俺に話かけてくる事が多くなったよな。
「と、友達だから……渋谷君は……僕の……」
そういう割には、声震えてるし、顔真っ赤だし、ずっと視線は床で目も合わせようとしない。けど、大崎が言ってくれた言葉は素直に嬉しかった。
きゅぅうう、と縮こまったチワワみたいな大崎。
なんか、秋人がこいつの事好きになった理由、分かる気がする。
「さんきゅ、大崎」
「…ふぇっ…」
ありがとうと伝えると、ブワッと大崎は全身を震わせながらキラキラしたおっきな目で俺を見てきた。
大崎に慰められてるわけだが、何故か大崎の周りに「友達」「嬉しい」「さんきゅ」などの文字が花と共に飛んでるのが見えた。幻覚に違いないけど、嬉しそうなオーラを纏って大崎は両手を胸の前で合わせ合唱していた。
「よしゃ、生徒会室行くかー」
「ほ、ほんとに大丈夫?」
椅子から立ち上がり、ぐーっと背伸びをする俺に、大崎が再び不安そうな顔付きでそう言ってくる。
「ん。なんか元気出たしな。あいつとの事も、ちょっと考え過ぎかなって思えてきた」
「考え過ぎ?」
「あーこっちの話し。別に大した事じゃないんだろうけど、俺ちょっとネガティヴ思考になってたわ」
鞄を持ち、大崎と一緒に教室を出る。
廊下を歩きながら、真剣に俺の話しに耳を傾ける大崎は、俺が一言一言発する度に表情を変えてた。
百面相ってこの事かな?
「はは…なんかこうやって大崎が相談乗ってくれるの結構嬉しいな」
「……っ‼︎」
「お前最初の頃めっちゃガード硬かったよな。なんか、最近やっとダチになれた気がしてすげえ嬉しい」
「っっっ‼︎」
きっと、大崎は誰かとこうして話しをするのはあまり慣れてる方じゃないと思う。
なのに俺の事気にかけてくれて真剣に相談乗ってくれてる。
「まじでさんきゅーな!」
「は、はいっいいえ!そんなっ‼︎」
なんか、本当にさっきより胸にあった重さが軽くなった。
「ははっ、どっちだよ」
生徒会室を前に、足を止める。
考えてもしょうがない。今はちゃんと目の前の仕事に集中して、あいつともこの後ちゃんと話しをしよう。
ちゃんと大丈夫だったって大崎に報告出来るように。
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