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悔しい
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会長が言った言葉を聞くと、体が震えた。
そりゃ、一年が入って来たら当然三年は引退、卒業って流れにはなるけど、その実感を知るのはもう少し後だろうなんて、決めつけている自分がいた。
「失礼しました」
「お先です、会長」
「うん。二人ともお疲れ様」
生徒会室から出て、大崎と廊下を並んで歩いた。
大崎も、会長の話しを聞いた後からずっと戸惑っている様子だった。
「渋谷君…どうする?」
「どうって……」
言葉を詰まらせてしまう。
会長は、俺と大崎のどちらかが次の会長になると言った。
だけどそれを決めるのは、俺たち二人自身だと言われた。
前までは、生徒会メンバーが相応しいと思った人物を推薦して、本人の同意が得られれば生徒会の役員になれるって制度だったけど、今年からはそうじゃなくなった。
「他の学校みたいに全校生徒からの投票とかなら、すぐ決められるのにね」
「まぁ、そうだよな」
二人してため息がこぼれ落ちた。
会長になれば、さらに進路に有効になる。そしたら進学にしろ、就職にしろ、後が困らない。
母さんにだって、学校のトップになったって言ったら俺の事認めてくれるかもしれない。
だけど………
「大崎、この話しは一旦俺達がそれぞれ考えてから話し合おうぜ」
「あ、僕も今そう思ってた…」
だけど、自分の中で引っかかるものがある。
「んじゃ、また今度この件についてはきっちり話そうな‼︎」
「うん‼︎あ、僕ちょっと教室寄ってから帰るね」
「おう、また明日な」
手を振ると、大崎はぺこりとお辞儀をして俺の前から去って行った。
その背中が見えなくなった事を確認して、俺は体の向きを変え、勢いよく走り出す。
眼鏡が帰ってどれくらい経った?
もう家に帰ったんだろうか。
「っ、はぁっ‼︎」
もしかしたら、またどっか行っちまってるかもしれない。あいつにはちゃんと話さないといけない事がある。話してもらわないといけない事もある。
それになにより、昼間の誤解を解かなくちゃ……
下駄箱まで全速力で走った。
あいつは気にしてない様だったけど、俺が気になるんだ。
この変なモヤモヤをなんとかしたい。
だから、あいつに1秒でも早く会って言ってやるんだ。
俺は、ちゃんとお前と付き合ってるって。
「……っはぁ…はっ、……」
息が切れる中、玄関に辿り着つくと、そこにいた人物の背中を見て、驚いてしまう。
“大丈夫だよ。新”
咄嗟に、会長が言ったその言葉を思い出した。
「……な……」
壁にもたれかかり、腕を組んでる眼鏡の姿。
制服のままで、鞄も持ってる。
「おま………帰ったんじゃ…」
もしかして、俺の事、待ってた……のか?
「お疲れ。もう話しは終わったのか?」
会長は、こいつが俺の事待ってるって分かってああ言ったのか?
「え、あ………おう…」
いつも通りの眼鏡に、少し戸惑う。
今日は散々な日だったから、てっきり帰ったのかと思っていた。
「何してんだよ。帰るぞ」
「………お、う……」
俺の前を、眼鏡が歩き始める。
どうしよう。こいつの顔が見れない。
「て、てかっ……待つなら一言くらい言えよ」
「いつも言わないだろ」
「……っ……」
嬉しい、だなんて。
「これからは言え……クソが……」
当たり前になりつつあったこいつと一緒に帰る時間。
不安になってる時にこそ、その当たり前がどれ程自分にとって嬉しい事なのかを思い知らされる。
俺が眼鏡だったら、多分先に帰ってた。
顔も合わせづらいし、どんな事話せばいいか分からないし。
「……新」
急いで眼鏡の後を追い、隣に並んで歩くと、手と手が触れ合った。
「………な、なに……」
まだ校門からも出てないってのに、眼鏡がそっと俺の手を握って来た。
「な、なんだよ急にっ……」
「別に」
「……まだ学校だぞっ……見られる……」
「いいよ」
「……っ……」
ほら、俺はいつも勢いだけで、こうやって構えられると話したい事が言い出せなくなる。
こいつは扱いづらいんだ。いつも予想してない事をさらりとやってみせるから。
怒るに怒れなくなってしまう。
「………眼鏡……」
「……なに?」
お前は俺の扱い方を良く知ってる。
「……ごめん……」
「ごめんって?」
優しいお前に、俺は弱いのに。
「…き、昨日の夜の事と……今日の昼休み……俺がダチに向けて言った事……」
悔しい。絶対先に眼鏡に全部吐かせてから俺が謝ってやろうと思ってたのに。
「……いいよ」
悔しい……お前がそうやって優しく笑いながら、繋いだ手に力を入れてくるから、どうしようもなく安心してしまう。
「全部分かってるから」
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