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あるわけない
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眼鏡と手を繋ぎながら家までの道のりを歩く。
日が沈むのが遅くなった分、はっきりと眼鏡の横顔が見えてしまう。
なんだが、こうやって二人で帰る事がとても懐かしく感じた。
「……新……」
交差点に差し掛かると、眼鏡がボソリと呟く。
「…な、なんだよ……」
人目を気にしながら、控えめにそう聞くと、眼鏡はきゅっと手に力を入れてきた。
不意に眼鏡を見てみると、眼鏡は俺から顔を逸らした。
「俺の方こそ……ごめんな」
詰まりながらそう呟いた眼鏡。
こいつが人の顔を見ずにこうして謝ってきたのは初めてで、少し驚いてしまう。
「なにが……ごめんだよ」
「分かってるくせに」
「……っ…」
信号が変わる。
ゆっくりと歩き出した眼鏡に引かれ、俺も歩き出した。
「ちゃんと終わらせてからお前には話そうと思ってたんだ」
「……終わらせるって……つか、俺の家の事だろ…なんでお前がコソコソと探ってんだよ」
「うん。だからだよ」
「っえ…」
突然足を止めた眼鏡は、俺の方へと振り返る。
「お前の事だから……何とかしたいって思って」
「……っ‼︎」
な、なんつー顔してこっち見てんだこいつは……
「つ、つか……頼んでねぇし」
理由が何であれ、勝手な事はするなってガツンと言ってやろうと思ってのに、そんな切なそうに見つめられたら何も言えねぇじゃねえか。
「だってお前、全然頼ってくれないじゃん」
「た、頼るも何も……俺は別に…」
余計なお節介だ。……なんて、言えなかった。
「でも俺が取った行動は、結果的にお前を不安にさせる様な事してしまったし、嘘もついた」
「……っ…」
分かってる。全部俺の為にしてくれてたって事くらい。
「ごめんな」
「……ふん……」
しばらく眼鏡の話しを聞きながら、ずっと地面を見て歩いてた。
いつもよりゆっくりとした歩調で、眼鏡の家まで続く道のりを、いつもの倍以上の時間をかけて歩いてる気がする。
「家に帰ったら全部話すよ」
「…………」
ここまできて、聞いていい事なのかどうか……そんな迷いが自分の中で生まれ始めていた。
少し手に汗をかいてしまう。
こいつがコソコソと何を探っていたのか気になるけど、話す事を惜しそうにする眼鏡の口から、本当に聞き出していい事なのだろうか。
「ふっ……手に汗かいてる」
「……るせぇ」
いや、俺個人の家庭の事情を俺が知らなくてどうする。
眼鏡が何を知ったかは知らないが、俺は全部聞く権利がある。
「……本当に聞きたい?」
「お前……話すって言ったじゃねえか」
「………うん」
まただ。こいつが見せる切なげな顔。
どうして俺の家の事なのに、そんな顔して俺の事を見るんだろう。
「聞いたら傷つくかもしれないよ?」
「平気だ」
俺が傷つく以前に、お前が傷ついてる顔してるじゃねえか。
「俺の事、嫌いになるかもしれない」
「アホか…」
そんな事………
「お前の事は……最初っから嫌いだ」
あるわけないのに。
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