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頭に昇った血は限界にまで達していた。
自分の事だからちゃんと聞かないといけないと思って我慢してたけど、効かなくなった。
「離せ眼鏡っ‼︎」
「落ち着け‼︎‼︎」
4枚目の写真を見た。
そこに写っていたのは、無残にも強引に髪を掴まれ、抵抗を見せる母さんと、母さんの髪を掴んで、拳を振り上げる見知らぬ顔をした男。
「くそっ‼︎ぶん殴ってやる‼︎‼︎」
冗談じゃないと思った。
こんな男が、俺の父親だなんて。
「新‼︎‼︎」
眼鏡の声が遠くで聞こえた。
変な感じだ。眼鏡は俺の両腕を掴んで、こんなに近くにいるのに、眼鏡の声が遠くに聞こえる。
「お前が今行ったところでどうにもならないだろ‼︎」
「っ‼︎」
そんな事、分かってる。
「くそが……っくそが‼︎‼︎」
やり場のない思いが溢れる。
床を強く蹴って、蹴って、蹴って……それでも全然怒りが収まらない。
ショックだったのは、こんな事になるまで俺だけが何も知らなかったという事。
母さんは俺にずっと嘘をついてたという事。
眼鏡に、こんな事を知られてしまったという事。
「……してやる……」
俺が……
顔も、目も、こうして感情に任せて拳を振り上げる事全部が
「殺してやる‼︎‼︎‼︎‼︎」
父親に似てるという事。
「新‼︎‼︎‼︎」
「っ、‼︎」
感情が爆発して、自分でも、何を叫んだのか分からなかったくらいだった。
そんな時、眼鏡が俺の名前を呼んだ。
それと同時に、頬に強い衝撃が走った。
「………っ……」
ジンジンとする頰に触れてみる。
さっきまで、あんなに頭の中がぐちゃぐちゃだったのに、その一瞬で我に返った。
恐る恐る眼鏡の方へ視線を上げると、眼鏡は、今までに見た事ないくらい、苦しそうな顔で俺の事を見ていた。
そして気付いた。
眼鏡が、初めて俺に手をあげたと。
「……いきなり……なにすんだよ……」
「……………」
そう問いかけても、眼鏡は何も言わなかった。
薄暗い部屋の中、少しだけ沈黙が続いた。
眼鏡の顔が見れなくて、ぶたれた頬を押さえながら下を向く。眼鏡は拳を強く握り締めてた。
「……………」
「…………………」
痛い……初めてこいつに殴られた。
頬がずっと、ジンジンして……痛い。
「……っ⁉︎」
しばらく眼鏡の足元を見ながら黙り込んでいると、眼鏡が俺の手を引き抱き締めてきた。
「……新………」
耳元で、俺の名前を囁くこいつの声が、あまりにも優しくて。
「………っ……痛えよ……」
「…うん………」
どうして、お前にばっかこんなかっこ悪いところ見られなくちゃいけないんだ。
いつもいつも、なんでお前にばっかこんな……
「……痛えよ………馬鹿が……」
「…………ごめん……」
自分の事は元から嫌いだった。
見た目も中身も、全部が嫌いだった。
もう少し、思ってる事を素直に伝えれたらいいのに。
もっと優しく接する事が出来たらいいのに。
思うだけで、変わりたいだけで、結局俺は俺のまんまだ。
父親は暴力的な人間で、俺自身も喧嘩っ早くて……
狂気に満ちた青い目をした男と、同じものを持ってる自分が、更に俺自身を嫌いにさせる。
「……眼鏡………」
「………」
大きな背中に手を回した。
縋り付くように、1ミリも隙間が無いように、眼鏡に抱きつくと、声が震えた。
「お前は……」
もう嫌だ……これ以上……
「……お前、だけは……」
さらりと髪を撫でられる。
優しい手の温もりに、たまらなくなって涙がこぼれた。
「俺の事……嫌いになるな……」
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