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犯人
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「ごめん‼︎‼︎」
予鈴が鳴り響いた瞬間、後ろから大きな声でそう叫ばれる。
僕を拘束していた手はスッと解かれ、口から手を抜かれるとつい咳き込んでしまった。
「ゴホッ、ゲホッ…っ…」
"ごめん"………そう叫んだ声は僕がよく知る人物の声。
僕の中で、先程までの恐怖心が怒りへと変わっていくのが分かる。
ある意味で、振り向きたくはない。
「……い、いっちゃん」
自分の体は、まだ微かだけど震えている。
遊び半分のつもりか、悪ふざけか、それとも単なる嫌がらせか…………
何にしろ、こんな事をして僕がここまでの反応を見せるとは思ってなかったであろう当の本人は、控えめな声で僕の事を呼んだ。
僕はそれに対し、振り向くことはなかった。
犯人が日野だと分かった瞬間、腹の中が煮え繰り返りそうになるほどの苛つきが生まれ、言葉も交わしたくないと思った。
「……あのなっ……その、……これは」
「どういうつもり」
「っ……」
本当に、どういうつもりなのか。
こんな事をして、また僕をからかって面白がりたかったのか。
馬鹿だとは思っていたけど、やっていい事と悪い事の区別がつかないなんて。
「こ………怖かった?」
「………」
日野の声が小さくなる。
怖かった………なんて、馬鹿じゃないのか。
いきなり後ろから襲われて、それが誰なのか分からない状態で、口を塞がれ、体を触られ、怖いと感じない人間がいるとでも思っているのか?
「言い訳は聞くけど、くだらない事だったら本当に怒るよ」
「えっ……」
もう怒ってるけど。
乱れた制服を正し、僕はようやく日野の方へと振り向く。
日野は僕の顔を見るとビクリと肩を震わせた。
今どんな表情で彼を見ているのか自分でも分からないが、恐らく相当ひどい顔をしているだろう。
「……ほ、ほらっ……こないだ俺が話したファンクラブの事でっ……」
「それがなに?」
「だからっ……も、もしその……猛烈ないっちゃんファンがいっちゃんを襲った時の………」
「………………」
モジモジと指と指を合わせてそう口にした日野を見て、僕は怒りよりも呆れがくる。
「あだっ」
ため息を吐いた後、僕は日野の額に思いっきりデコピンをお見舞いしてやった。
日野はビックリした顔で額を押さえながら僕を見る。
「くだらない事だったら怒るって言ったよね?」
「く、くだらんくないやんか‼︎ほんまにそんな事あったらどうするが⁉︎」
「ご心配なく。この学校で君以上の馬鹿力はいないよ。仮にそんな事があったとしても、相手が君じゃないなら簡単に振り解く事は出来る」
そもそも、根本からおかしいでしょ。
どうしてまだ噂でしかないファンクラブの会員の子が、僕を襲う事になるんだ。
その発想が逆にすごいよ。
「いっちゃん‼︎俺は心配しゆうが‼︎」
「だから、そういうのはいいから。君は自分の事だけ考えててよ。勉強、ちゃんと進んでるの?」
「っ…………」
ぐっと息を飲む日野を見て、彼の現状を悟った。
恐らく、勉強はあまり進んでないのだろう。
「本当に……君は自分のやるべき事をやって。今度こんな悪ふざけしたら絶交だから」
「ぜ、絶交っ⁉︎」
「絶交。二度と口利かない」
「っ……」
一言ピシャリと言い放つと、僕は日野に背を向けた。
そして時計を確認する。
急いで教室に戻らないと点呼に間に合わない。
「日野」
生徒会室を出る前に、もう一度日野の方へと振り向く。
そして、ビシッと指をさして言ってやった。
「僕が出した課題を全部やり終えるまで、僕には指一本触れない事。いいね?」
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