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欲にまみれた
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あれから、日野の行動は大人しくなるどころか、日に日にエスカレートしていった。
休み時間になると毎回僕のクラスまで顔を出しに来る様になったし、僕が一年生と廊下で話している時なんか横から割り込んで来て、特に用も無いのに僕を連れ出したりする。
しつこい程に毎日付き纏われたけれど、あの言い付けはしっかりと守っていて、日野はあの日以降、僕に触れようとはして来なかった。
「なんでやいっちゃん‼︎今日のお昼は俺と一緒に食べるって約束しちょったやんか‼︎」
数日が経ったある日の昼休み。
日野が叫んだ様に、この日は日野と一緒にお昼を食べる予定だったけど、僕は急用が入ってしまい一緒に食べれなくなった。
「大きな声出さないでよ………急遽役員会議が入ったんだから仕方ないでしょ」
「っ、ならそれ終わるまで待ちよる……」
「後半は水田くんのところに行かなくちゃいけないって言ったよね?」
「……ぐ……」
廊下で簡単な説明をしてから、僕はその後すぐに会議室に向かった。
振り返って日野の方を見てみると、日野はションボリと耳を下げ尻尾を丸めている様に見えた。
さすがに最近忙しくて中々構ってあげられないのは申し訳ないと思うけど、僕だってやる事があるのだから仕方がない。
「さてと……」
会議室の前に来て、気持ちを切り替える。
部屋に入ると、仏頂面をした成海が先に席についていた。
「他の人は?」
成海の隣の席に腰を下ろし、そう聞いてみる。
部屋には僕と成海以外まだ誰も来てはいなかった。
というよりも、僕達が来るのが早過ぎただけなんだけど……
「知らねえよ。つかなんでいきなり役員会議なんか」
「珍しい事じゃないでしょ?すぐ終わるんだからそんな面倒くさそうな顔しないでよ」
「………チッ」
相変わらず、成海の態度は酷いものだった。
僕の前ではいつもこんな感じだ。
成海自身、前はもっと"素"は隠していたのに、今じゃあまりそれを隠さなくなった。
愛想笑いやお世辞の類いが面倒になったのか………
とにかく、成海は新と一緒にいる様になってからは自分を偽らなくなった気がする。
「樹」
ぽつんとそんな事を考えていると、成海に名前を呼ばれる。
「ん?……なに?」
持ってきた資料に目を通していると、成海は少し黙り込んだ後、口を開いた。
「お前さ、最近身の回りで何か妙な事とか無かったか?」
「え……?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
そう言った成海は、あたかもそういう事が起こったかの様な口ぶりだった。
妙な事………
少し考えてみたけれど、思い当たるものが見つからない。
「特に無いけど?」
「………そっか」
「………?」
どうしたんだろうと思い、今度は僕から尋ねてみる。
「最近何かあったの?」
そう聞いてはみたが、成海はそれに対し「別に」の一言のみを返してきた。
そんな事を聞いてくるくらいだから、何かあったんだろうとは思うけど………
「……つかさ、お前最近一年にいい顔し過ぎだろ」
「?」
どうして?と少し間が開いた後返すと、成海は「さっき廊下で一年がお前の事話してた」と言った。
だけど、それに対しては特になにも思わなかった。
「何言ってるの?お前だって今の一年生に散々言われてるよ?」
「は?」
「副会長は無愛想だって」
「……………」
「はぁ……去年はまだ評判良かったのにね。猫を被るのをやめた途端にこれだもんね」
「…別にいいだろ。もう疲れたんだよ」
ふいっとそっぽを向いた成海を見て、僕は少し笑ってしまいそうになる。
「でも、お前にはちゃんと自分を受け止めてくれる人がいるから。それでいいのかもね」
「…………」
本当の自分を見せた途端に、周りの見る目は変わって来たりする事もあるだろうけど、そういった中で、それでもそのままの自分を受け入れてくれる人がいるというのはきっと、とても嬉しい事だと思う。
「お前はどうなんだよ?」
「ん?」
成海が僕の方を向く。
珍しく真剣な表情で僕を見るから、少し驚いてしまう。
「自分より他人を優先して、誰にでも優しい。誰にでも等しく接する八方美人なお前の本性。俺にすら見せた事ないだろ?」
「……………」
「お前ってさ。欲が全く見えないよな」
「……………」
僕の本性……?……欲?
「あの馬鹿には見せたのかね」
「……何言って」
笑って返したが、少しどきりとしてしまった。
「遅くなってすみません!」
その会話の後、すぐに他の役員の子達が会議室に入ってきて、成海との会話は中断してしまった。
だけど、会議中成海が言った言葉が僕の頭の中を巡った。
本性……。本当の僕を誰かに見せた事があるのか。
“俺にすら見せた事ないだろ?”
そんな事ない。一番本当の僕を知っているのは成海のはずだよ。長い付き合いだし、お互いにお互いの前では決して自分を偽ったりした事なかった。
「………欲が見えない。ねぇ……」
それは嘘だ。成海は散々見て来たはずだ。
欲にまみれた、汚い本当の僕自身を。
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