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ボールペン
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役員会議が終わって、この後は水田くんと待ち合わせをしている。
勉強で分からないところがあるらしく、出来れば教えて欲しいと頼まれた。もちろん、こちらとしては積極性や勉強熱心な姿勢を評価してあげたいと思うからその申し出を受けた。
………なんて。水田くんを優先した理由がそれでは、日野は恐らく納得しないだろう。
先に僕と約束をしていたのは日野の方だけど…この選考期間だけは申し訳ないけど一年生を優先させてもらいたい。
成海が僕の事を八方美人だと言っていたが、別に気にはならない。
それが僕自身だと、僕は思ってるし、自覚はある。
ただ……それ以外の接し方が僕には出来ないだけであって………
「あ……」
そんな事を考えながら、水田くんとの待ち合わせ場所である図書室に向かおうとしていると、忘れ物をしている事に気がつく。
急いで引き返し、生徒会に一度戻った。
参考書と、問題集と……あと………
「……あれ…」
ペン立てにあるはずの、僕がいつも使っているボールペンが無い。
机の上や引き出しの中、机の周りを見渡してみても見当たらない。
………もしかしたら、教室に……
そう思ったが、あのボールペンは、普段ここでしか使用していない。
「時間……」
とりあえず時間も迫ってる事だし、また後で探してみよう。
うっかり無くしてしまったのなら仕方が無いし、買い直せばいいだけの話しだ。
………だけど、正直あのボールペンは僕のお気に入りだったりする。
書き味が良くて、インクも滲まない。線の太さもちょうど良くて………
って、まぁ別にいいか………同じものを買えばいいだけだ。
たかがボールペン1本無くなったところでうじうじと何を考えているんだ僕は。
そうこうしている間に、図書室に到着する。
気を取り直し、図書室の扉を開け中に入ると、奥の席に座る水田くんを発見した。
「ごめん水田くん、待った?」
僕がそう声を掛けると、水田くんは少しビクリとし、こちらへ振り向いた。
「あっ、全然ですよ‼︎ボクもついさっき来たところで……」
「ふふっ、なら良かった」
水田くんの隣の席に腰を下ろす。
参考書とノートを開いて、改めて水田くんに「今日はよろしくね」と一言挨拶をした。
図書室はとても静かで、勉強をする場所にはもってこいだと僕は思う。
以前日野にも図書室で勉強を教えてあげようとした事があったんだけど、日野は図書室は落ち着かないと言って中々聞き入れてくれなかった。
「あの…月島先輩……」
「ん?」
図書室ほど落ち着ける場所は無いというのに……と、日野との事を思い出し少し口元が緩んでしまいそうになる中、水田くんから質問を受ける。
「この問3なんですけど……」
「ああ、これは2つの公式を使うんだよ。教科書を見るより問題集の………」
1つ1つ、きちんと理解が出来るように水田くんに教えてあげた。
彼は成績上位者であり、優秀な生徒だが、そんな彼にも苦手教科はあるようだ。
今回は数学を教えてあげているんだけど、問題を解いてる水田くんは苦い顔をしていた。
「月島先輩……お昼ご飯食べました?」
「お昼ご飯?……」
「その、役員会議があるって……聞いたので」
不意に、水田くんがそう聞いてくる。
役員会議の後、すぐにここに来たから正直まだお昼ご飯は食べていなかったが、水田くんが気を遣っている様に見えたので、「ちゃんと食べたよ」と答えた。
「ありがとう。そんなに気にしなくて大丈夫だよ」
「っ……い、いえそう言う訳にはっ……ボクが無理言って先輩に勉強を教えていただきたいなんて言ったから……その」
あわあわと慌てる水田くんを見て、ついキョトンとしてしまった。
「君は優しいね」
「‼︎そ、そんなっ……先輩こそ……」
「そんな事ないよ。僕って結構ひどい奴だよ?」
なんて、少し笑ってみせると、水田くんはガタンっと勢い良く椅子から立ち上がった。
その時、勢いがあったせいか、水田くんの筆箱が床に落下してしまう。
バラバラと中身が散乱する中、水田くんは僕を真っ直ぐと見下ろして、大きく口を開いた。
「月島先輩はすっごく優しいですよ‼︎」
「………………」
静かだった図書室に、水田くんの声が響き渡る。
また驚いてしまい、つい彼を見上げてしまった。
目をキラキラと輝かせ、拳を握りガッツポーズをしっかりと決める水田くん。
「ぷっ……くふっ…………」
「あっ……」
数秒後に、ようやくこの状況に体が追いつき、笑いが込み上げてくる。
「すみません‼︎……大きな声出してっ…」
「ふふっ……水田くん、声……」
「はっ…………す、すみませ……」
人差し指を口に当て、静かにね?と合図を見せると、水田くんは静かに椅子に座り直した。
顔は真っ赤で、取り乱してしまったのか、大きい声を出してしまい恥ずかしいのか……
目の前で水田くんはプルプルと震えていた。
「本当にすみません……ボク……先輩と一緒にいるとどうも緊張してしまって…………」
「全然大丈夫だよ。むしろ緊張なんてしなくていいのに」
「そ、それは……む、無理です……」
更に真っ赤になる水田くん。
可愛いなぁ。なんて思いながら、僕は床に落ちた水田くんの筆箱と、その中身を拾おうと前屈みになる。
「あっすみません‼︎……自分で拾いますっ」
すぐに水田くんも拾おうと同じ様に前屈みになる。
ちらりと彼に視線をやると、水田くんは僕からパッと目を逸らした。
「本当に……そんなに力まなくても……」
もう少し気を抜いてもいいのに。なんて思いながら、落ちていた彼のボールペンを拾おうとした時だった。
「え…………」
ドクン、と心臓が脈を打つ。
「……これ」
拾い上げた水田くんのボールペン。
「月島先輩?」
無くした僕のボールペンと同じもの…………
「ど、どうしたんですか?」
一瞬、背筋がぞわりとした。
だが、すぐに水田くんの声を聞き、ハッと我に帰る。
「あ……ごめんね。なんでもないよ」
「?」
ボールペンを水田くんに渡す。
少し思ってはいけない事を考えてしまった。
ボールペンなんて、同じ物を使う人は沢山いる。
「そのボールペン、僕も持ってたから。つい……」
「持ってた……って、無くしちゃったんですか?」
「……う、うん……まぁ」
心拍数が上がる。変な事を一瞬でも考えてしまった。
「先輩と同じの使ってたなんて……ボク嬉しいです」
まだ、心臓がドクドクとうるさい。
「……良いですよね。このボールペン」
目の前の水田くんは、ボールペンを見つめながらにこりと笑った。
思わず僕は、変化を悟られないように水田くんから目を逸らしてしまう。
「ボクのお気に入りなんです」
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