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ここにあるもの
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5限目の休み時間から、鬱陶しいほどに日野の顔が頭の中にちらついた。
らしくないくらいに、気持ちがフワフワしていて、危うく放課後の清掃活動に遅れてしまいそうになった。
その日の活動が終了すると、一度生徒会メンバーを集め、次期会員候補の子達について、その途中経過を話し合った。
「俺からは以上です」
最後に、新が担当している子についてを話し終え、この日の生徒会活動は終わる。
この後、皆から提出された各自のデータを僕の方でまとめて、それが終われば本当にこの日の仕事が終了する。
「樹」
生徒会メンバーを解散させた後、成海が僕の名を呼ぶ。まとめていた資料を置き、成海に正対して顔を向けると、成海は何か言いたそうな表情をしていた。
「なに?今日はやたらと絡んでくるね」
「…………」
今日の昼間にしろ、仕事以外で成海がこんなに僕に話し掛けてくるなんて珍しい事だった。
まぁ、僕としては、こうやって二人きりで、気も使わず話が出来る友人は成海くらいだから、嬉しいとは思うけれど。
「……?どうしたの?」
なんて、そんな事を考えていたら、成海は怪訝な表情を見せた。
「……昼間に話した事」
「…?……ああ、最近身の回りで…ってやつ?」
「お前、本当になにもないんだな?」
「………………え?」
そう言った成海の声に、少しビクリとした。
いつもは、何かを僕に対し発言する時は、気持ちの入ってないような声音なのに、いきなり真剣な声と表情を見せるから、つい……
「?……どうしたの?…こっちから聞くけど、お前は何かあったの?」
「質問で返すな。俺の事はどうでもいいんだよ、お前から答えろ」
驚いた。成海って、こんな顔もするんだ。
「……本当に、僕は何もなかったよ」
「無くしたものとかは?」
「え……」
無くしたもの?……
「無くした記憶は無いのに、手元から自分の私物は消えなかったのかって聞いたんだ」
「…………」
畳み掛けるように問われ、どきりとする。
……無くしたもの……あるにはある。
「……っ……」
机の上のペン立てを見る。
いつもそこにあるはずの僕のボールペン。
一番最後に使ったのは、今日の朝……
「本当に、僕は大丈夫だよ」
「樹‼︎」
「成海、声」
「っ、」
だとしても、たかがボールペンじゃないか。
成海が何を僕に伝えようとしてるのかは、その時分かった。
「俺が担当してる奴、あいつは推薦枠から落とせ」
「…………」
少し落ち着いた成海は、そう言ってポケットから何かを取り出した。
「さっきは新と大崎がいたから話さなかったけど、今朝こいつが落としてったものだ。見れば分かる」
「…………」
そう言われ、ハガキサイズの白い封筒が渡される。
中身を見てみると、日野に渡された隠し撮りと同じような写真が数枚入っていた。
「お前、たかがボールペンとか思ってると、後で痛い目見るぞ」
写真を確認していると、成海の呆れたような声が頭の上から聞こえた。
「…………なんだ、気付いてたのか」
「俺は別にお前の私物が無くなろうが興味ねえけど、この写真を見る限り、標的が生徒会メンバーってのは分かる」
「……」
「早いうちに処理しねえと、ボールペンだけじゃ済まなくなるぞ」
イラつきを見せ始めた成海に、もう一度お前は何もなかったのかと尋ねてみると、成海も午前の授業で気付いたと言ったが、使っていた数学のノートが突然消えたらしい。
「……それは、誰かに盗まれた。と言いたいの?」
「…………」
ここで一つ、僕と成海の頭の中に浮かんだ言葉は例の“生徒会ファンクラブ”の話しだった。
成海は一年生がその話しをしているのをたまたま聞いたみたいだけど、今回の件については早めの対処法を考えないといけないのかもしれない。
「でも、そのファンクラブの子達の仕業とは言い切れない」
本当にそうだとしたら、こちらも手を打たなくてはいけないけど、もし今回、僕と成海の私物が消えた件について、本人の不注意が招いた事であれば何も言えなくなる。
どこかに置き忘れたり、落としたりしただけなら、その子達の仕業だと言い切るのはあまりにも酷だ。
「俺達は別にいいけど、新と大崎に何かあったらどうするつもりだ」
「…………」
「俺は忠告したからな。とにかく、今年の一年には気を付けろよ」
そう言って、成海は僕に背を向けた。
成海に渡された写真を見てみる。明らかに、肌の露出が多い隠し撮りばかりだった。
恐らく、着替えをしている時にでも撮られたんだろう。
「………………」
僕が写ってる写真は、幸い着替えをしている時のものではなかったが、こういった写真が撮られると、今後もその内容がエスカレートしていく可能性がある。
ぐっと、右腕を押さえてみる。
…もしも、ここにあるものが、見られでもしたら…………
僕はきっと、ここにはいられなくなる。
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