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そんなの嘘だ
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数ヶ月前と何が違うのか。
それは、僕の体にはなかったもの。
……これがあるだけで、何故か他の人たちとは違う世界にいるみたいな気がする。
人目に触れてはいけない。誰にも知られてはいけない。
ここでは、僕と日野だけが知る秘密。
「ただいま」
……あれから、戸締りを済ませて家に帰って来た。
あれ程僕の事を待ってると言った日野は、先に帰っていたようだ。
それを知らせるメールが一件、僕の携帯に入っていた。
「リリィ、お腹空いたでしょ?」
玄関先では、いつものようにリリィが僕を出迎えてくれる。抱き上げて、リビングに向かい、リリィにご飯を用意してあげた。
彼女の背中を撫でると、気持ち良さそうに喉を鳴らしながら、あっという間にご飯を平らげてしまった。
僕も、今日はお昼を食べなかったからお腹が空いている。
「…………」
テーブルの上には、またいつものように母さんが作った夕食が置かれていた。
どうしようかと悩んだが、やっぱり僕はそれに手を付ける事なく、冷蔵庫の中からスポーツドリンクを取り出し、それを持って2階へ上がる。
その後を、リリィが付いてきた。
「……はぁ」
鞄を置き、制服を脱ぐ。
「…………」
ふと、鏡に写る自分の姿をよく見てみる。
そして、右腕にあるものに触れてみると、胸が少しジリリと痛んだ。
これと同じものが、日野の腕にもある。
…………彼は今まで、これとどう向き合って来たのだろうか。
日常の中で、これを人目に触れないようにするには中々の工夫が必要だ。夏は半袖も着れやしない。
「…………っ」
馬鹿だなぁ…………僕も。
なんでこんなものを自分の体にいれてまで、彼の事が欲しいと思ったんだろう。
珍しく僕の事を心配してくれていた成海も、きっとこれを見たら驚くだろう。いや、驚くだけじゃ済まないかもしれない。
……なんて、決して後悔は無いのだけれど。
確かにこれを体に彫った事で、この先不便な事は多々あるだろう。
だけどそれ以上に、僕はずっと欲しかったものを手に入れる事が出来たんだ。
……後悔は、していない。
「………………」
Tシャツを着て、ベッドに腰をかけた。
そして日野に繋がる電話番号を表示させる。
これを見ていると、どうも日野の事が頭に浮かんで……たまったもんじゃない。
今日は全然相手をしてあげれなかったし、勉強の事も気になる。
少し日野に聞いてみよう。きちんと課題は進んでいるのかを。
「もしもし?日野?」
……まあ、本当は声が聞きたくなった。……なんて、死んでも言えない。
『いっちゃん?』
コール音が鳴ると、すぐに日野は電話に出た。
少し眠そうな声をしている。
「寝てたの?」
『んーん……ちょっとだけ……』
「ふふっ……なにそれ、寝てたんでしょ」
『……んん……』
寝てたのに、電話にはすぐ出てくれるんだ。
なんて考えると、胸の奥がきゅんとしてしまう。
「今日はごめんね。お昼一緒に食べれなくて」
『ん……かまんよ…俺もなんかごめんな……いっちゃん忙しいのにワガママ言うて……』
……日野、少し寝ぼけてるのかな?声が何だかいつもより弱々しい。
時々あくびをする日野。
やっぱり寝てたの邪魔しちゃ悪いかな?……
「日野、眠い?眠いなら電話……」
『いや……切らんといて』
「…………」
間を空けず、すぐにその言葉を返される。
自分でも馬鹿だと思うくらい、先程の日野の言葉にドキドキしてしまっている。
単純に、そう言われて嬉しいと思えた。
「じゃあ、もう少し電話してもいいかな?」
『……ん……俺もいっちゃんの声聞きたい』
「とか言って、途中で寝るのはやめてよ」
『はは……おん……絶対寝ん』
日野の声。こんなに大人しい彼の声を聞くのは初めてかもしれない。
眠そうな声って、なんだか少し可愛い。
「課題、進んでる?」
『ん……今日な…英語の課題半分終わらせたで』
「そっか。偉いね。明日出来たところ僕に頂戴?採点してあげるから」
『んん……けんどなあ…多分間違いばっかやで』
「間違えたらまたやり直せばいいよ。教えてあげるから」
電話をしていると、リリィが僕の膝に飛び乗ってきた。手の甲でリリィの喉を撫でると、気持ち良さそうな顔をして目を閉じた。
『そうなやぁ……俺としては早く課題終わらせたいしな……』
「焦っても頭は良くならないよ?」
『焦るよ……だって早く終わらさんと俺……いっちゃんに触れん……』
「…………」
リリィの首輪に付けられた鈴が、チリン、と綺麗な音を奏でた。
また僕は日野の言葉に対し、どきりとしてしまう。
『いっちゃん……俺頑張って我慢するで……』
「……うん」
そうだ、僕は日野にそう約束した。
課題をやり終えるまで、僕には指一本触れない事。って……
『けんどいっちゃん……俺触りたい……』
「さっきと言ってる事違ってるよ?我慢するんでしょ?」
僕自身、本当はそんな約束本気で言ったつもりはなかった。
それに、日野はいくら僕がそう約束したとしても、3日も持たずに約束を破るだろうと思っていた。
『いっちゃん…チューしたいなぁ?』
でも、さっき日野は我慢すると言った。
「……駄目だよ。約束は約束だからね」
これじゃ、僕の方から絶対約束を破るなんて出来やしない。
『……じゃあいっちゃん……お願いしていい?』
「…?」
やけに艶っぽい日野の声が鼓膜に響く。
静かな部屋の中で、彼の声だけが頭の中に響いて、鼓動がトクトクと速さを増す。
『声……聞かせて?』
「声?」
なんだか、変な気分になる。
下腹部がジンジンして、体が熱くなる。
『せめて声だけでもかまんき…聞かせて』
「声って……」
駄目だ……なんだか頭の中がクラクラする。
…………日野って、こんな色っぽい声していたかな……
「声なら……今も聞こえてるでしょ?」
何かを期待している自分がいる。
こんな耳元で、こんな声で、僕に今から言おうとしている言葉を…………僕は待ってる…?……
『いっちゃん……一人でしたりする?』
「っ、」
あまりにも甘いその声に、背筋がゾクリとしてしまう。
「な……何言ってるの」
心拍数が上がる。馬鹿みたいにドキドキしてる。
どうして日野相手に……こんなはしたない事を言われたのに……
『俺……聞きたいなぁ……いっちゃんのえっちな声』
「…ふ、ふざけないでよ……そういう事言うなら切るよ」
そう。それでいい。いつもの様に、そうやって彼の悪ふざけを間に受けない様に。
『お願い……いっちゃん……』
「……っ…だから」
……乗せられるな……ちゃんと断って……電話を…
『お願い……』
耳元で囁く彼の声。
頭の中がクラクラする。
「……っ……」
触りたい……触ってほしい……
そんな感情を引き出される。
こんな不純な事出来るわけがない。日野がしたいならしてあげたい。
約束が果たされるまで待つべきだ。きっと我慢出来ない。
声だけでなんて無理だ。……僕も日野の声が聞きたい。
「……っ…な、何をすればいいの?」
僕は欲が全く見えないって?……
そんなの嘘だ。矛盾ばかりで、自分の欲求には素直な方だ。
『ふふ……いっちゃん可愛い……』
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