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君が心配する事は何もない
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この事態をどうするか考えたうえで、やはり一年生の動きが気になる。もしかしたらファンクラブの子の仕業ではないかもしれないし、そもそも一年生がやったのではないのかもしれない。
だけど、盗撮に関しては成海が担当していた一年生が持っていたと言ったし、何にせよ、まずは一年生の中で何が起きているのかは調べなくてはならない。
僕はあれからまず生徒会室の鍵を閉め、一年生の教室へと向かった。
清掃活動が終わってからそう時間は経ってなかったから幸い数名まだ教室に残っていてくれてた。
その中から僕はある生徒を一人呼び出し人気の無い渡り廊下へと移動した。
「ごめんね。急にこんなお願いをして」
「いえ、ボクに出来ることがあるなら」
僕が呼び出したのは水田くんだった。
ここ数日彼と一緒にいたけれど、水田くんは生徒会に対して悪意を持っているわけでも無いし、少なくとも僕は彼を信用している。
水田くんに事の全てを話した。
彼はひどく驚いていたが、次第に冷静になり話しを聞いてくれた。
そして、僕が彼にお願いをした内容はこうだ。
・一年生の中で生徒会に対し不穏な動きを見せる生徒はいるか
・数人の生徒が集まり、何か取り引きの様な事はしているか
・ファンクラブを組織した人物は誰なのか
この3つさえ分かれば何とか対応する事は出来る。
正直今回の件に関しては一年生の誰かに協力をお願いするしかない。
僕の方でも出来る限り調べてはみるが……
「月島先輩」
「ん?」
眉間にしわを寄せる水田くん。
今回の話しは彼にとってもショックな出来事だったらしい。
「ボクが必ず犯人を見つけます」
そう言った水田くんの言葉はとても心強く感じるものだった。
「うん。……でも巻き込んじゃってごめんね。あんまり無理はしないように」
「っボクは‼︎……許せないです……学校の為に毎日頑張ってる生徒会の方々にそんな事をするなんて」
「…………」
拳を握り締める水田くんはそのまま下を向いてしまった。
生徒会に憧れを抱いてくれている彼に今回の事を告げるのは少し酷だったかもしれない。
「今回の件が無事片付いたら、僕が君を次期生徒会メンバーに推薦するよ」
「っえ」
ここまで真っ直ぐな姿勢を見せてくれる事はとても嬉しい事だ。
それに、彼は生徒会に入る為に誰よりも努力をしていると僕は知っている。
「だけど、だからと言って無理はしないでね」
目を丸くする水田くんの頭を撫でる。すると目をキラキラと輝かせ彼の頬が赤くなる。
「……っ…せ、先輩……」
「なに?」
「…………」
胸に手をやる彼から緊張が伝わってきた。
……耳まで真っ赤だ。
「ボク……月島先輩に伝えたい事が」
「伝えたい事?…そう言えば、前も言ってたよね。あの時は聞きそびれちゃったけど」
「はい……っ…えっと」
ぎゅぅっと身を縮めながら、水田くんは目をキョロキョロとさせた。
彼の心臓の音が聞こえそうなくらい水田くんから緊張が伝わる。
「ボク、もちろん生徒会の皆さんを尊敬していますっ…でも特にその……月島先輩は…特別で」
「特別?」
「へ、変な意味じゃないんです‼︎ただ……」
口籠もりながら、水田くんがその先の言葉を言おうとした時だった。
「おーい‼︎いっちゃーん‼︎」
向かいから、日野が大きく手を振りながらこっちに駆けて来た。
すると、水田くんはビクッと体を跳ねらせ、表情が一変する。
「すみません、ボクはこれで……」
「え、でもさっきの話し」
「失礼します」
日野がこの場に到着する前に、水田くんは慌てるようにして去って行ってしまった。
そして、何か良いことがあったのかは知らないが、満面の笑みを見せる日野。
「今日は早めに済んだの?」
「んふふ、正解〜‼︎はいこれ」
すぐに日野から済ませた課題が渡される。
ざっと目を通して、空白が無いかを確認した。
「うん、全部ちゃんとやってるね」
「やろ?なな、今すぐ採点してほしいがやけど」
「今?」
「いーま‼︎」
「…………」
尻尾を千切れるほど振る日野。
それ程自信があるのか。
だけど、……困ったな。今は生徒会室は使えないし、それに今回の件を日野には一切話してない。
日野もファンクラブより課題の方に意識が向き始めているから、出来れば日野にはこの事は黙っておきたい。
「この後用事があるから、家に帰った後で採点するよ」
「ええっ⁉︎」
「明日の朝には返すから。それまで別の教科の課題を進めてて」
「………っ…ちぇ……せっかく褒めてもらえると思ったのに」
あからさまに気を落とす日野は、また子供みたいに指先を合わせながら頬を膨らませ、口先を尖らせた。
相変わらず大きな子供みたいだ。
というより、犬の方が合ってる。
「……それはなに?」
ふと、日野が手に持つ封筒に目がいく。
僕がそれを指さすと、日野は何かを思い出したような顔をして、その封筒を僕に差し出してきた。
「これな、いっちゃんに」
「僕に?」
「ん、さっき一年生の女の子に会ってな、これいっちゃんに渡してって頼まれた‼︎」
「…………そう」
封筒を受け取る。
なんだか見覚えのある封筒だった。
「ふふん」
「……なにその目」
「え?早く中身読んでほしいなぁって」
「なにそれ」
「だってそれラブレターやろ?俺は目の前でちゃーんといっちゃんの答えを聞きたいが」
「………………」
ふん、と胸を張る日野を見て、心底呆れてしまう。
何に自信があるのか分からないが、付き合ってる人に自分じゃない人からのラブレターを普通渡しに来る?
しかも目の前で読んでほしいとかほんと無神経……
「いっちゃん早く‼︎」
「はぁ…………」
馬鹿な恋人を持つと苦労する。
日野があまりにもうるさいので、とっとと中身を確認して差出人に返事をしに行かなくては。
まぁ、これが本当にラブレターというものであればの話しだけど。
「…………」
「どう?やっぱラブレターやろ?」
中身を取り出し、手紙に目を通す。
「……あぁ、そうだね……」
そしてすぐに手紙を封筒の中へと戻した。
「ほんで、いっちゃんの返事は?」
手が震える。
咄嗟に腕を押さえて日野に悟られないようにしたが、上手く誤魔化せているだろうか。
「馬鹿日野、僕を信じてないの?」
やっぱりこの封筒には見覚えがあった。
これは、成海が僕のところへ持ってきたハガキサイズの白い封筒と同じものだ。
そして、中身は……
「俺はもちろん信じちゅうよ。いっちゃんは俺の事が好きやもんな?」
……中身、は…………
「君に言われると少し腹が立つけど、まぁうん」
「まぁうんって何よぉ‼︎ちゃんと言って‼︎」
「日野、うるさい」
「っひどい‼︎ちゃんと言ってくれんと俺心配になるし不安‼︎」
「…………」
中には、手紙と一枚の写真。
「……大丈夫、君の事は好きだよ、ちゃんと。」
「‼︎」
手紙には、【別れろ】の文字が紙一面にギッシリと書き記されていた。
そして写真…………
「何その顔、僕は君を好きって言ってるんだよ」
……これは、体育祭の時の……
「だから、君が心配する事は何もない」
…………絶対に、日野には言えない。
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