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鬱陶しいというのが本音
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珍しい日だった。その日、いつもは誰よりも早く学校に登校してるはずの樹が、休んだ。
「……おい」
「なに」
普通なら、俺に何か一言くらい連絡が入るはず。
「なにじゃねえよ」
それに朝からやけにどんよりとした顔の馬鹿がわざわざ俺の教室にまでやって来て、挙句呼び出された。
「何なんだよ朝っぱらから」
こっちはこの後めんどくさい掃除を朝からしなくちゃいけないと言うのに、辛気くさい顔を拝ませやがって。
いい迷惑だ。
「ナル、ちっと頼みがある」
「無理」
「断るの早いっ‼︎」
馬鹿がギャンギャンと騒ぐ。
軽く流そうと思ったが、この時のこいつはあの鬱陶しいほどのテンションではなく、気持ち悪いほどにジッと俺の事を見てきたから逃げれなかった。
「お願いや‼︎俺の課題見るの手伝って‼︎」
「……無理」
これは完全に素が出た。
「樹に見てもらってるんだろ」
「いっちゃん最近元気無いが‼︎」
「お前が馬鹿過ぎるせいだろ」
「違う‼︎いや違わんかもしれんけどいっちゃんにばっかり負担かけたくないもん‼︎」
「だからって俺にその負担を背負えと?」
「うん‼︎お願い‼︎」
「…………」
……こいつ……なにが「うん」だよふざけるな。
まぁ、樹が最近様子おかしいのは見てて分かるけど。
あの件の事もあるしそりゃあいつにばかり背負わせてしまっているものはあるかもしれない。
「……お前、樹から何か聞いたか?」
「?……なにを?」
「…………」
……あいつが言う訳ないよな。
「はぁ……まぁいい。んで、あと何が残ってんの?」
「古典と世界史とあと物理化学……あっ、あと英語も追加で課題出された」
「…………」
ドン、と馬鹿は背中に隠していた課題の束を俺に見せてきた。
この量……鬼だなあいつ。
「今どこまで出来てんの?」
「昨日数学が終わってな、やきまずはそっちの採点してほしい」
「3問以上間違ってたら全問初めからな」
「えっ」
当然だろ。と一言添えて俺はまず数学の課題を受け取る。
馬鹿は苦い顔をして「ははっ」と笑った。
じっと馬鹿の顔を見てみる。
こいつは今日樹が学校を休んだ事について何か知っているのだろうか。
「なぁ「上城先輩っ!」
日野にその事を聞こうとした時、廊下の向かい側からそう呼ばれる。
走ってきたのは最近樹とよくいる一年。
名前……なんて言ったっけ?
まぁいいか、そいつはここまで来ると、息を切らしながら俺を見上げた。
「あのっ、月島先輩が今日お休みって本当ですか?」
目の前の一年がそう言った瞬間、日野の表情が曇る。
「さぁ、来てないって事はそう言う事だろ」
「っ月島先輩から何か聞いてないですか⁉︎……先輩昨日すごく具合悪そうだったんです…」
「じゃあ風邪かなんかじゃないの?そんな事でいちいち騒ぐなよ……鬱陶しい」
「っ……」
最後、思わず本音が出てしまう。
あいつには口の利き方には気を付けろって言われてたが、別に興味のない奴にいい口を利いてやる理由はない。
「おい日野」
「えっ」
ため息をついた後、日野に目をやる。
「樹からなんか連絡来てねえの?」
たかが1日くらい。連絡しなくちゃいけない訳じゃないけど、あいつが連絡をして来ないのは初めての事だった。
「……んー……俺も来てないき分からん」
日野は下手くそな作り笑いを浮かべた。
「…………あっそ」
「そんなっ……心配じゃないんですかっ?」
相変わらずこの一年はうるさい。
樹もいいご身分だな。後輩にこんなに慕われちゃってよ。
あーあ、涙まで浮かべてるよこいつ。意味わかんねえ。
【ヴヴッ……】
「……ん?」
この面倒くさい状況をどうしようかと思っていると、ポケットの中で携帯が振動した。
取り出して見てみると、ここまで悩まされた事が馬鹿らしいと思えて仕方がない内容がメールにて送られてきた。
「風邪だってさ」
「「え?」」
日野と一年の声が重なる。
二人に携帯の画面を見せてやると、同じくらいのリアクションを目の前の二人は取った。
「風邪……ですか……」
と、肩の力を抜く一年。
それに対し日野は樹の名前をボソッと呟く程度で一年と同じように肩の力を抜いた。
メールは、樹からだった。
“風邪を引いたから今日は休む” と、至ってシンプルな文面。
「もういいだろ。早く自分の教室に帰れよ」
「あっ……ナル、課題」
「後で採点しとくから昼に取りに来い」
「‼︎」
問題集の束で肩を軽く叩いて追い払うと、日野は少しだけいつものような明るい表情をして去って行った。
「……なに。なんでまだいんの?」
一方で、この一年はニコリと笑って俺を見上げる。
「上城先輩、ボクもこれから清掃活動ですよ」
「だからなに」
さっきまで樹の事で気を落としていたくせに、それが嘘のようにこいつは晴れ晴れとした笑顔を向ける。
正直、気味が悪い。
「一緒に行きましょう?」
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