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手離したくない
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先生に「具合が悪い」と嘘をつき、その日やらなければいけない仕事を放棄して、初めて学校を早退した。
「ん……」
チュ、と軽いキスが落ちてくる。
学校から真っ直ぐ向かったのは日野の家。
「桐島さんは?……」
「幹部会があるって、地元帰ってった。しばらくは帰ってこんよ」
向かい合わせで座り、日野は僕の髪にキスをしながらゆっくりと制服を脱がしていく。
カーテンを閉め切っているこの部屋は薄暗くて、日野は片付けが苦手なのか、前に来た時よりも散らかっている。
「いっちゃん?」
上の服を脱がされたところで、日野の手が止まる。
きっと気付いているんだろう……僕が柄にも無く緊張しているという事を。
「ふふ、今更やん」
「……うるさい」
「受け身でおられると、俺期待するで?」
「っ、う」
大きな手で僕の体を支え、引き寄せられ、胸元にまた軽いキス。
あまりにも嬉しそうに日野が笑うから、僕は余計に苦しくなる。
「日野は……脱がないの……?」
「んー?じゃあ脱がせてくれる?」
「……………」
甘えた声……どうして僕が抵抗しない事を分かっててそんな声出すかな……
「ふふ、いっちゃんとお揃い?」
服を脱がせると、そこにあるモノを指さして日野は笑った。
「……うん……お揃い…」
綺麗な青い刺青……
そして、日野のモノと対になる、僕の肩にあるもう一つの刺青。
「いっちゃん…こっち来て」
「………………」
髪を撫でられ、日野の側に寄る。
「もう一回聞きたいなぁ…俺の事『好き』って」
「言わない」
「なんでや??…言うてや」
「…………」
ぎゅっと抱き締められる。
…………肌と肌が密着して気持ちいい。
「じゃあ……君から言ってよ」
日野とまたひとつ約束をした。
「ふふっ、俺いっちゃんの事好き」
「軽過ぎる」
「ひどっ??」
しばらく、学校では友人という関係に戻ろう、と。
「もっと心を込めて言ってくれないと」
「んー、じゃあ…めっちゃ好き」
「じゃあってなに」
水田くんの件は日野に言わなかった。
別に水田くんには『誰かに告げ口をするな』とは言われていない。
彼から出された要求は、僕の事を本当に良く理解している人間しか考えつかない事だった。
「君って本当に僕の事好きなの?」
「いっちゃんそれは真顔で言う事やないで」
「ふふっ、ごめん……」
やり方は何でもいいから、日野と別れる事。
そして今後一切、口を利かない事。誰かに優しくしない事。
「ねぇ、もう一回言って」
僕が誰かに言えない事を分かっていて水田くんはそう言った。
そしてその約束が守れるよう、僕のやり方でいいと言った。
「いっちゃんが好き」
最悪な状況なのは変わりないが、ちゃんと時間をくれただけ、よかったのかもしれない。
「もう一回……」
「好き……めっちゃ好き……だーい好き」
頬を摺り寄せてくる日野の髪がくすぐったい。
日野はきっと、次もあると思っているんだろう。
「いいよ」
「……ん?」
「今日は僕が下で……」
次が来ればいいけれど、中途半端な覚悟じゃ絶対に乗り切れない問題だと僕は思っている。
だけど、次が来る様に、僕は精一杯足掻いてみようと思う。
「しばらくは触れ合えないんだ。君は目を離したらすぐに他所へ行ってしまいそうだからね。他の人が目に入らなくなるくらい、今日は僕の事…」
めちゃくちゃに、ぐちゃぐちゃに。
一生かかっても日野のにおいが取れないくらいに……僕の体に彼を記憶したい。
それさえあれば、僕はきっと大丈夫だ。
「いいが?そんな事言うて。俺、優しくとか出来んで?」
「知ってるよそれくらい」
しばらくだなんて曖昧な嘘を付いた僕を、どうか許してほしい。
君にはせめて、普通の日常を送ってほしい。
「何で笑ってるの」
「ふふっ、いや、なんか幸せなやぁって」
幸せ……そう思ってくれてるんだ。
「じゃあ今日はいっちゃんが泣いてもやめんけんどそれでもえいがやね?」
「絶対泣かないから」
「さぁーどうやろ?」
「……馬鹿にし過ぎ」
コツンと額が当たる。
罪悪感と同じくらい、日野を手離したくないという思いが溢れて止まらなかった。
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