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七通目のメッセージ
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電気もつけず、真っ直ぐと自室に上がる。
着替えをする余裕もないまま、扉に凭れると膝から崩れ落ちた。
「…………っ、……」
ひどい事を言ってしまった。
あんな事言うつもりなんてなかったのに。
日野の顔が見れなかった。
彼は一体どんな表情で僕を見ていたんだろう。
思ったより、想像していた事より、誰かと付き合うという事は難しい。
誰かに想われる事がこんなにも自分を弱くしてしまうなんて、思わなかった。
日野に触られた腕が、その感触を覚えている。
大きな手。日野の手は温かかった。
「…………リリィ」
部屋の隅から、リリィが顔を出す。
首輪に取り付けた小さな鈴を鳴らしながら擦り寄ってくる。
「お腹空いたよね……待って、今ご飯を」
リリィにこうしてちゃんと触れるのはいつ振りだろう。
最近は家に帰ってリリィのご飯を用意したら、すぐ水田くんのところへ行っていたからなぁ……
水田くんのところへ行くと必ず付けられる青い首輪。
「…………お揃い、だね……」
人は動物に首輪を付けたがるけれど、それは一種の愛情表現でもあると思うんだ。
大切な家族だという証。けれど、僕に付けられるものは温かみのあるものじゃない。
リリィもそう思っているのだろうか。
僕が勘違いしているだけで、彼女にとってはただの拘束具にしか思えないのだろうか。
言葉が通じない分、本当の気持ちを理解する事は出来ない。
立ち上がろうとしたけど、どうも足に力が入らなかった。
そんな僕の足元に丸くなる1匹の白い猫。
しばらくリリィとその場でじっとしていると、ポケットの中の携帯が振動した。
画面には、日野 という名前が表示されている。
メールだった。
見ようか見まいか悩んだ。携帯は後で水田くんに覗かれてしまう。
それも条件の一つだった。
「…………また」
再び携帯が振動する。その後も数回、日野からメールが届いた。
昼間あんな事を言ってしまったんだ。
彼に何を言われても仕方がない事を僕は言ってしまった。
もしかすると、日野から本当に別れを告げられるかもしれない。
きっと彼は失望したに違いない。
指先が震える。指一本で確認出来る事を躊躇ってしまう。
「……っ」
意を決し、画面をタップする。
一通目のメールに目を通した。
“さっきな、やっと課題半分終わったで”
二通目
“そうそう!今日な、ナルの見舞い行ったで!思ったより元気そうやったき安心したわぁ〜!相変わらず姫とラブラブしよったで(笑)”
三通目
“あと!桐島がやっと帰って来たで!とりあえず今日からまたあいつの小言に付き合わないかん〜(泣)”
四通目
“俺な、多分馬鹿やき考え無しに行動してしまう事いっぱいあるけど、ちょっとでもいっちゃんの事支えれるようになる”
五通目
“今日はごめんな。今度からは気を付けるき、いっちゃんは何も気にせんでかまんよ”
六通目
“約束、ちゃんと守るき安心してな”
七通目
“いっちゃん、大好き”
「…………っ……」
携帯を握り締める。本当に日野は馬鹿だ。
「送り過ぎだよ………馬鹿日野」
七通ものメール。僕がメールを必ず見るように、何度も繰り返し送られてきたメール。
「……僕、だって…」
君に謝らなくちゃいけない事が沢山ある。
約束を破ったのは僕の方だ。
考え無しに行動してしまったのは僕だ。
君の元に帰りたい。応えてあげられるように、また君に好きだと伝えられるように。
これ以上、自分を殺してなるものか。
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