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刺青が示すもの
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「くそ龍が‼︎」
「桐島さん、ちと落ち着きや」
「うるさいわ‼︎黙れボケカスが」
「えー……ボケカスって……」
手に持った地図をぐしゃりと握り潰してしまう。
車ん中で舎弟と2人きり。かれこれ3時間も待機しゆう状態で、イライラが最高潮に達してしまった。
「でもまぁ、急にどうしたんですかね」
「何がや」
「ほら、若の事ですよ」
運転席に座るのは、俺が至急呼び寄せた日野組舎弟の内の1人。
龍が家出をする時、それを手伝ってくれた奴の1人でもある。
「おまんは楽しそうでえいの」
「そりゃあ、久しぶりの仕事ですし?それに何より若が俺を頼ってくれたのが嬉しいんですよ」
パソコンを器用に打ちながらニマニマと笑うもんやき、ぶん殴りたくなる。
「にしても、良かったんですかね」
「あ?」
「だって、若はずっと組を抜けたいって言ってたじゃないですか」
「……あー」
膝の上に置いた小さなノートパソコンを目にも留まらぬ速さでタイピングしながら、これまた嬉しそうに言うこいつの言葉。
それは俺も疑問やった事や。
龍はこいつがこっちに来ると同時に、一旦地元に帰ってしもうた。
どこか吹っ切れたような、覚悟を決めたような。そんな顔で。
「あ、桐島さん」
「ん?」
「やっぱりこの家で合ってるみたいですね」
タイピングが終了し、ハッキングしたのは、会長さんの端末。
GPSを得て、会長さんの位置情報を特定する。
パソコンの画面に広がる地図の上で青い点が強弱を繰り返しながら光る。
そこは龍に調べてほしいと言われた『水田龍之介』という生徒の家。
「どうします?水田って奴の端末にもアクセスします?」
龍があんな顔するなんて、よっぽどの事があるがかと思うたけんど、この水田という生徒は調べた限りただの一般人や。
一般人に手を出す事は親父さんから禁止されちゅう。
「……まぁ、例外を除けば……やけんどな」
「え?」
「いや、何でもない。頼むわ」
組織の事を知った上で接触しゆうのか、知らん状態で接触しゆうのか。それによっては対応が違ってくる。
会長さんは、ちゃんと自覚しちゅうがか?
「“若”になにかあったら、そん時は俺らは黙っておれんきなぁ」
「そうですね。どうしましょう」
龍が正式にうちの組の長にならん限り、会長さんがその席に座る事に話は進んだ。進んでしもうた。
つまりは、現時点での日野組の若頭は、月島樹という人物。
親父さんが会長さんの事、えっらい気に入ってしもうたきなぁ。
幹部を除く組の奴らもあんな綺麗な人の下に付けるなら…って大喜びやったし。
「……桐島さん、アクセス出来ましたよ」
数分もせん内に仕事を終え、再びパソコンに目をやる。
完全に侵入する事に成功し、写真フォルダ、連絡先、個人情報、ぜーんぶ丸分かりの状態。
「……この餓鬼、どうやらうちの組の事も調べてたみたいですね」
「ああ」
「それだけなら、良かったんですけどね」
「……そうやな」
写真フォルダを開けば、そこには一面会長さんが映し出される。
その他にも、うちの組に関する事や、刺青がバッチリ写った龍の写真も出て来る。
端末の次に、この生徒が使用するパソコンへのアクセスも行った。
するとそこにも大量の写真フォルダ。
写真を見進める中で、鍵付きのフォルダがひとつあり、侵入すると俺は目を見開いてしまった。
透き通る白い肌。肩には組の後取りである印の龍の刺青。
それを刻む人物が、無様にも首に拘束具を付けられ、縛られ、見るに堪えん姿で写った写真、動画がわんさかと出てくる。
「……チッ」
これは案外、まずいかもしれん。
「一般人ですよ?」
「やきなんな」
完全に、こいつはうちの組織を知った上で、会長さんと接触しゆう。
……残念や。俺にはもうどうしようも出来ん。
「龍に知らせる」
「いいんですか?」
携帯を取り出し、本邸に戻った馬鹿に電話をする。
調べたらすぐに知らせる。それがあいつが俺に出した命令や。
「若に言っちゃったら、この子殺されますよ」
「…………」
「それに、いくら代行とは言え、この人はれっきとしたうちの組の若頭でもありますし」
「………………」
コール音が鳴り響く中、それについてを俺自身もよく考えた。
けんど、何を言うてもどうにもならん。その証拠が見つかってしもうた。
組の頭に手ぇ出されたら、黙ってはおれん。
いくら相手が一般人やろうとも。
会長さんは、まだ本当の意味で肩にある刺青の意味を理解してない。
二人は刺青を“繋がり”として捉えちゅうやろうけんど、俺らからしたらその意味は全然違う。
「もしもし、龍?……おん、その事で電話したがよ」
それは組の象徴。俺らの上に立つ者である証。
刻んだら最後、絶対にその事実からは逃げられん。
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