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やっと、君に会える
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シーツを被り泣き続けていた水田くんが落ち着くと、改めてきちんと話をした。
今度は僕が台所を借り、温かい飲み物を用意して、彼の隣に腰をおろして、目を見ながら話をした。
彼の目は赤くなって少し腫れてしまっている。
温かい紅茶が入ったマグカップを両手で包みながら、たわいもない会話から始めた。
最初はずっと黙っていた水田くんだったが、徐々に受け答えをしてくれるようにまでなると、僕は本題に入る。
「首輪、外してもいいかな?」
そう告げると、彼の目の色が変わる。
けれど、ぐっと唇を噛み締めながら、小さく頷いてくれた。
この部屋にいる時は、ずっと付けさせれていた青い首輪。
首から外し、水田くんに返すと、また彼は泣き出しそうになる。
「こんなもの無くても、君が誘ってくれるなら、僕はいつでもお家にお邪魔させてもらうよ」
「……………」
「君が作ってくれたクッキー、本当に美味しかった。また今度作ってくれないかな?今度は生徒会のみんなの分も」
「………………無理ですよ……ボクは…沢山ひどい事をしてしまいました」
「なら、謝ればいい。僕が一緒に行ってあげるから」
「…無理、ですよ………」
震える彼の手に、自分の手を添える。
やっと、本当の僕で接する事が出来る。
「水田くん、僕は君に、正式に生徒会役員になってもらいたいと思っている」
「………ぇ」
「もちろん、これまで君がしてきた事の償いとして……もあるけど、君の生徒会を思う気持ちはきっとこの先、生徒会を助ける事に繋がると思うんだ」
微笑みかけると、水田くんは下を向いて何かを考え始めた。
僕が言った言葉は嘘ではない。
水田くんはある意味で危うい人物ではあるけれど、それを自分自身でコントロール出来るようになれば、きっと沢山の人の役に立つ事が出来ると思う。
自分にも自信がついて、今回の事のような事態に、ならずに済むはずだ。
ちゃんと考える力さえつければ。
「3日後、交代式まで考えてくれないかな」
「……………っ……は、ぃ」
「……いい子」
綺麗なカールを描く水田くんの髪に触れる。
優しく頭を撫でると、水田くんの目から涙が零れ落ちた。
「僕と日野の事も、他の人には内緒にしておいてもらえると助かるんだけど……」
「………」
「僕と君だけの秘密にしてくれないかな」
「…………………ゔぅ」
悔しそうに涙を流しながら、それでも水田くんは頷いてくれた。
よかった……と、内心ホッとする。
これであとは、写真を消してもらえればなんとか……
「…ん?」
携帯が振動する。
手に取ってみると、成海からの電話だった。
「電話、出てもいい?」
膝に顔を埋める水田くんの了承を得て、電話に出る。
「もしもし」
そういえば、ちゃんと成海とも話が出来ていなかったな。
入院、怪我は大丈夫なのだろうか。
『樹、お前新に何かした?』
……と、その前にこの話題が来るとは思っていたけれど。
「ああ、その事については明日ちゃんと謝るよ」
『……お前のせいであいつの機嫌 最悪なんだけど』
「ふふっ、ごめんごめん。ところで、怪我は大丈夫なの?」
『大袈裟なんだよ入院とか。それより携帯とメガネがダメんなった。そっちの方がダメージでかいわ』
不機嫌な成海の声。なんだか落ち着いてしまう。
話によると、携帯は代機を用意してもらったらしいが……
「まぁなんにせよ、元気そうで良かった」
明日の朝 退院するらしく、午後からは学校に来れると聞き安心した。
明日から忙しくなる。残りの生徒会メンバーも選ばなければならないし、何より今回の事についての最終的な問題解決もしなくては。
「………先輩……」
「ん?」
成海との電話が終わると、水田くんが弱々しい声音で僕を呼ぶ。
「……許して…もらえるでしょうか…………」
「それは君次第だと思うよ」
「…っ…………ごめん、なさい……」
震える声で何度も謝る姿。
許さない。…………なんて言えなくなる。
この部屋の壁一面に貼られた僕の写真。
改めてよく見れば、どれも僕が笑っているものばかりだった。
どんな形であれ、誰かを思う気持ちは美しい。
僕も君に、こんな風に笑いかけてあげたい。
写真を見つめながら、日野の事を思う。
やっと、日野に会える。
そう思った時だった。
「会長さん」
部屋の入り口から、桐島さんの声が聞こえた。
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