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3代目
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「待って下さい‼︎桐島さん‼︎」
部屋の扉が開くと同時に、気がつけば僕の体は床に押し付けられ腕を背中で拘束されていた。
入って来たもう一人の人物、今僕を押さえているのは見知らぬ男性。
「初めましてでこんな事してしまってすみませんー。俺、神崎って言います。よろしくですわ、月島会長」
柔らかく笑うこの人の首と耳に光る金のジュエリー。格好からして、この人が何者であるかはすぐに検討がついた。
身動きが取れない。背中に膝をつかれ、この人の体重が僕にのしかかる。
「…っ桐島さん」
どうして今、彼らがここに……
まさか日野にバレた……?……
「だ、誰ですかっ……なんで家の中にっ……」
ベッドの上の水田くんに桐島さんは歩み寄る。
僕が一番恐れていた事が起ころうとしている。
「よくもまぁ、こんだけ会長さんの写真集めたなぁ」
「…っだ、誰……」
「誰誰ってうるさいわ。俺らが入って来た時点で大体の事は分かるやろ?」
「その子に触るな‼︎」
水田くんに手を伸ばそうとした桐島さんに対し、咄嗟に叫び声を上げてしまう。
体を停止させた桐島さんが僕を見る。
その目はまるで、獲物を捉えた蛇のよう。
「日野、は……この事……」
「さっき教えた」
その目から逃れられない。
汗が、息が、心臓が、この状況に全て飲み込まれる。
日野には知られてはいけなかった事なのに、絶対に彼だけは巻き込まないようにしなくてはいけなかったのに。
「まぁ、今はあの馬鹿の話はえい」
「…つ、月島先輩…」
「問題はこっちや」
「ひぐっ」
怯えて動けない水田くんの顔を掴み、容赦なくベッドに叩きつける瞬間、桐島さんが別人に見える。
「手ぇ出す相手、ちゃーんと考えたか?ん?」
「ゔ、っ、ひ…ぅ」
どうする……僕はどうすればいい。
こんな事あってはいけない。
水田くんとの事はやっと終わる事が出来たんだ……
なのに、どうして今更……っ……
「桐島さん‼︎」
「おっと、いかんて会長」
立ち上がろうとすれば、それより強い力でねじ伏せられる。
「か、神崎さん…離して下さい…っ…」
「出来れば俺もそうしたいんですけど、桐島さんの命令なんで、すみません」
…っ……力が強い……振り解けない……
「桐島さん…っ、日野は……」
「あいつは今ここには来れん」
「日野と話をさせて下さい‼︎……水田くんの事は僕から日野に話します…っ…」
張り詰めた空気……このままじゃ駄目だ。
桐島さんは何をするつもりだ…日野はどうしてこの事を知った……なんで……
「会長さんがあいつに話して解決するような事やないがよ」
「……っ、だけど」
「勘違いしなや。俺らがこうしてここに来たのはあんたの為でも、龍の為でも無い」
ドスの効いた声。睨み付けられ体が硬直する。
僕の言う事なんて、初めから受け入れないつもりだ。
「会長さん、あんたはもうちっと自覚せないかんで」
「……せ、せんぱ……」
息が詰まりそうになる程の威圧。
桐島さんの声が頭の中を支配する。
考えが何も思いつかない……僕が今するべき事は……
「その肩にあるもんは、俺らの誇りや」
「……桐島、さ………何を」
「それに手ェ出されたら、黙っておれんやろ?」
何かを部屋の中から持ち出し、水田くんの腕をベッドに押し付けながら、桐島さんは前屈みになった。
何をしようとしているのか、僕にはまるで分からない。
分からないからこそ、怖い。
「い、あ……先輩……ぜんばい…っ」
「一応未成年で一般人やきなぁ。ほんまならこんな事じゃ済まんところやけんど。まぁ大目に見ちゃるわ」
「あ、ああああああっっ‼︎いだいっ‼︎いだいよぉっ‼︎」
響き渡る悲鳴がビリビリと鼓膜を揺らす。
ここからじゃ、何も見えない。
声が出ない……目の前で一体何が起こっているんだ……
「ああああっ‼︎ぜんぱ……っあうゔっ‼︎……ああああああああっ‼︎」
呻き声は鳴り止まなかった。桐島さんが水田くんから体を離すと、その場で水田くんは指を押さえながら背中を丸め蹲る。
桐島さんの手には、見覚えのある一本のボールペン。
「ひ、ヒィ……ひっぐ、あ、うぅ……」
水田くんの指の付け根が赤紫色になって腫れ上がっているのが見えた。
「次反対の手ぇや、ほら出し」
「い、ぃ、あ、ああ、あ」
声が出ない……体が動かない……
「…二回も言わせんなや」
「ひっ、ぐ、ご、ごめんなざ……っ…」
「………………神崎、ペンチは?」
「あーすみません車ですわ」
「じゃあ代わりになるもんは?」
「……あ、そこにハサミありますよ」
なんで……直接的に日野組に被害があった訳でもないのに……
「足の指なら、人前に晒す事なんて滅多にないき、別に一本くらいかまんよな?」
「あ、あ、あ…ゔ、あ」
ここまでする必要があるのか…?……
「ぜんぱ…っ、たすけ、だすげでっ…月島ぜんぱい……っ…」
乱暴に組みしいて、足の指に当てがうその刃先が怪しく光る。
これが、日野がいる世界のルール…本当のケジメのつけ方。
「っ桐島さん‼︎もういいでしょう‼︎」
だからと言って、こんな事をしていい訳がない。
「彼は十分反省しています‼︎今回の事は僕の責任でもある‼︎」
甘く見ていた。どこか想像と違った日野組の雰囲気にのまれ、安心していた自分がいた。
日野のような人ばかりとは限らない。
「会長さん、さっきも言うたやろ。反省してます。僕の責任です。問題はそこやないがよ」
日野はこれまでどんな風景を見てきたんだろう。
凍て付くような視線と、震え上がる程の恐怖の中で、彼は一体、何を見てきたんだろう。
「……っ…なら、命令だ……」
覚悟が、足りなかった。
「命令?会長さんが俺に?」
僕は日野の事を何も知らない。
どうやったら彼と同じ場所に立てるだろうか。
僕は無力だ。だからこそ、踏み込むしかない。
振り切るしかない。
「日野から、この刺青は組の跡取りである証でもあると聞きました」
「…………それで?」
僕は日野の人生の半分を背負うと言って、これを体に刻む事を決意した。
ずっと先の事だと思っていた。日が経てば、何とかなるんじゃないかって思っている自分がいた。
けれど……これは日野との繋がりであって、組の絶対だ。
「っ僕が3代目になる…」
「………………」
こんな事を言って、どうにかなる話じゃないのは分かっている。
だけど、今水田くんを守る為にはこれに賭けるしか方法がない。
「だから…それ以上」
日野がもし、こうする事を桐島さんに命じたならば、彼の手を汚す事になってしまう。
「……その子に、手を出すな」
それだけは、させない。
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