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対になるもの
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思考が停止してしまう。
信じられないものが目に映る。
「…………なに、それ」
目を疑った。
悪い夢であってほしいと思った。
「日野……」
この先、日野が普通の道を歩む事が出来れば、彼がこれまで歩んできた道と全く違うものを見せてあげられると思っていた。
「……ねえ…っ……」
僕の覚悟は決まっていたのに、全部日野の為に使おうと思っていたのに。
「…なんでっ……君がそれを……」
思わず日野にしがみ付いてしまう。
下を向けば、悔しさが込み上げてくる。
「っ僕は…一体なんの為に……っ……」
日野は何も言わなかった。
それが不安で、悲しくて、理由を知りたいのに、こうなる前にどうして僕に一言言ってくれなかったのかと悔しくなる。
「それはもう君が背負う必要の無いものじゃないかっ……」
日野の右肩には、僕と同じものが刻まれている。
「…っ僕が要らなくなったの?」
僕と日野、二人で一つだったはずの龍の刺青。
「…………なんで……僕に何も言わなかったの……」
僕の対になるものが無くなる。
日野がずっと避けて来た事だったはずなのに、揃ってしまえば、この先日野はずっとこの世界に縛られて生きていく事になる。
僕と日野の夢が叶わなくなる。
「………なんで、何も言わなかった?」
ボソリと呟いた日野の声は、いつもより低かった。
「何も言わんかったのはあんたの方やろ‼︎」
「っ‼︎」
強い痛みが両肩に走る。
物凄い力で押し倒され、日野が僕を見下ろす。
「…っ……ふざけんなや…こっちのセリフや……」
「…ひ……日野」
「なんでちゃんと言ってくれんかった……なんで俺に全部隠す……」
「日野……っ……いた、い……」
見た事もない程に怒りを見せる日野の目が僕を刺した。
ギリリと力が入り、掴まれた肩が痛む。
「……俺は日野組を継ぐ」
「…‼︎…なんで……っ」
「っ俺は‼︎」
叫ぶ日野の声が震えた。
その拍子に、頬に涙がこぼれ落ちてくる。
「……俺は……っ……ずっとあんたとおりたい……」
見慣れた日野の泣き顔……
歯を食いしばりながら、子供のように大粒の涙を流す日野の目。
「けんど中途半端な俺じゃ…ずっとあんたに気を使わせてしまう……っ…あんたにばっか迷惑かけてしまう……」
今に始まった事でもないのに、そんな事僕は微塵も気になんてしていないのに……
「……俺はあんたがおればそれでいい」
「っ……」
また大粒の涙が日野の頬を伝って僕に落ちてくる。
手の平から日野の熱が伝わってくる。
「あんたさえおれば……どこでも…なんでもやっていける……」
こんなにも悲しそうに求められたのは初めてだ。
縋り付いて、みっともなく泣いて、この世の終わりかってくらいの表情で見つめられて。
「……そう思えたき……俺は覚悟を決めれた……やのになんで……」
僕の胸に頭を埋めながら、日野が呟く言葉が容赦なく胸に突き刺さる。
ジリジリと、小さな針で突かれているようで、苦しくて、体の奥が熱くて。
「一番守りたいものが守れかった……っ俺はどうすればいい……」
「……っ」
耐えて、耐えて、必死に耐えていた涙が溢れた。
「聞いた時には頭がどうにかなると思った……今すぐにでもそいつを殺したいと思うた……」
「…日野……」
「……けんどっ……あんたとの約束があったき……俺は……」
……約束
『コレを見た人物が誰か分かっても…どうか君は何もしないでほしい』
不意に、僕が以前日野に向かって言った言葉が頭にかける。
「……約束……守ってくれたの……?」
あの時僕が言った言葉を覚えていてくれてたの?……
「一番破りたい約束やった……あんたが許してくれるなら……今すぐにでも俺は……」
僕は日野の事を、まだ何も分かってあげれていない。
「…………いっちゃん……」
図体は大きいくせに、泣き虫で甘えたで、お調子者で、すぐ僕を困らせる事ばかりするくせに…本当はちゃんと考えがあって、きっと誰よりも優しい。
「いっちゃん…………いっちゃん……」
「……なに…も……重いってば………馬鹿日野……」
こんなにも僕を好きでいてくれる人が、他にいるだろうか
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