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「 」
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「遅い、10分遅刻」
全力疾走で保健室に辿り着く。
ガラリと扉を開けた瞬間、聞こえてきたのはあいつの声。
「時間はちゃんと守れよ」
「っお前こそ、何でここなんだよ。正面玄関で待ってろよ」
「眠かったから寝てたんだよ」
こいつ。どうやら本当に寝てたな。
ちゃっかりネクタイ外して第二ボタンまで開けやがって。
ベッドに居座りながら俺を見上げるこの光景。
前にもこんな事があった気がする。
「つか下校時刻過ぎてんだから帰るぞ。起きろ」
「今ちょっと無理」
ゴロンとベッドに寝転がるくそ野郎。
1週間くらい前に受けた専門学校の試験が合格してからずっとこの調子だ。
完全にスイッチ切ってやがる。
だいたい俺は反対したんだ。
大学からの推薦を全部断って、こいつが選んだのは警察官を育成する専門学校。
親父さんみたいにすげぇ警察官を目指すのかと思いきや、こいつは街の駐在さんになりたいらしい。
こいつの実力があれば会長みたいに超名門大学に入る事だって出来たのに。
何が駐在だ。こいつが交番の前に立ってるだけでわいせつ罪だ。
「んなとこ立ってないでこっち来いよ」
「俺は帰る」
眼鏡も、会長も、部長さんに大崎、秋人も。
みんなやりたい事見つけてなりたいものの為に頑張ってる。
もちろん、それは俺だって……
「新」
背を向けていると、後ろから手を引かれベッドに押し倒される。
「んだよ…」
「いや、この光景懐かしいなって」
手首を握る手が、ゆっくりと指を絡め取る。
最近髪を切った眼鏡が少し幼く見える。
目を細めながら俺を舐めるかのように見る視線が体に刺さる。
「今から特別授業しない?センセ」
「誰が先生だボケ」
「あれ、違った?」
「チッ…」
だから嫌だったんだ。こいつには言わないつもりだったのにどこかで口にすれば嫌でもこいつの耳に入る。
俺が目指すもの、それは眼鏡がふざけて言ったように、学校の教師。
いや俺は真剣に目指してんだ。
それを知ってから毎度のようにこのネタを出してくる。
「セクハラだ」
「どこがだよ」
そうやって何でもないような顔して人の服脱がせてくるところがだよ。
「おいここ保健室っ」
「うん。燃える」
なにが 燃える。……だ、くそ野郎め。
「初めてもここだったじゃん」
「それ言うなよ。あの時は最悪だったんだからよ」
順調にプチプチとボタンを外される中、俺は脱力したままその光景を見つめる。
今日は疲れたんだ。早く帰って寝たい。
「最悪だったからこそ、もう一回……な?」
馬鹿じゃねえの。そんな顔したって無駄だぞ。
「なぁってば」
「重いっ‼︎退けよくそ眼鏡」
顔を背けてうつ伏せになると思い切り体重をかけられる。
まじで重いし。
「おいおい、最近ちゃんと名前で呼んでくれてたじゃん」
「それは全部気まぐれだ」
「分かった。照れてんだろ」
「違うっつってんだろが」
外が暗くなる中、怒鳴ってやろうと振り向くとチュ、とキスをされる。
「……かわい」
「…っ」
ムカつくけど、こういう事をされるからドキドキしてしまう。
こいつが目を細めると、つられてこっちまで目を細めて。
「噛むなよ」
「んー」
「おい」
キスをした後、俺を抱き締めるこいつの首に手を回して受け入れる。
それはもう当たり前のように。
「……なんだかんだで、お前もその気じゃん」
こいつの抱き締め方は好きなんだ。
「ムカつく…」
「知ってる」
数ヶ月後には、こいつは卒業して一人暮らし。
「お前が脱がせてくれる?」
「じゃあ起きろよっ…くっ付いてじゃ出来ねえだろが」
「このまま脱がせて」
「無茶言うな…んっ」
優しく包み込むようなキスが、あと何回出来るだろう。
肌を伝う冷たい手が、一瞬でも離れてしまうのが寂しい。
低くて濁りのない声で名前を呼ばれる日々が、俺にとってどれほど幸せか。
きっと眼鏡は、言わなくてもまたスカした顔で「知ってる」なんて言って笑うんだろう。
「なんだよ……ヤんねえのかよ…」
「んー、なんか違うんだよなぁ」
「……なにが?」
不思議な光景だなって思った。
俺の上で意地悪く笑う眼鏡と、出会った頃の眼鏡が重なる。
「ん?分かってるだろ?俺がなに求めてんのか」
俺って眼鏡のどこに惚れたんだっけ?
「俺が可愛がってやりたくなるような事言って?」
「変態くせえよ…」
……なんて、細かい事は考えない方がいい。
分かってるのは、俺はこいつの事は憎たらしく思う。
多分こいつも同じ事を思ってると思うけど。
くそ眼鏡はくそ眼鏡で、毎日ムカつく、時々殴りたくなる。こんな意地くそ大っ嫌いだ。
それは昔から変わらない。
「なぁ、新」
それでも惚れた理由。……そんなんほんとはどうでもいいんだ。
肝心なのは今の俺だ。
俺は多分、なにをされてもこいつの事を許してしまう。
この先ずっと俺の隣にはこいつがいるという事が、簡単に頭の中で想像出来てしまう。
「俺の事誘って」
「……成海」
「そう。けどまだ足りない」
呆れて笑ってしまいそうになるくらい
俺はこいつの事が、馬鹿みたいに好きなんだ。
「出来るよな?新」
いやらしく指を舐める眼鏡が、俺の唇に触れる。
もっと、もっと、もっと……って。
体の芯を突くようなその声に、溶かされそうになりながら、眼鏡が耳元で囁く。
「強請ってみろよ」
結局は、今日もその言葉に従ってしまうのだ。
きっと……これからもずっと。
【強請ってみろよ。/END】
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