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小さい傷は大きな痛み
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先程、新は僕にここに居ろと言って
そのまま走って行ってしまった。
「こんなの痛くもないのに」
プクっと、少しだけ赤く腫れる指を眺めて、
新の事を考えた
演技の練習が一息ついて
新の様子を見にここに来た時、
一生懸命に言い渡された仕事をする
小さな背中
すぐに、新だと分かった
「ふふっ・・・ここも塗り忘れてる」
新がペンキを塗った部分は
線からはみ出ていたり、
色ムラがあったり、少し荒っぽい
「新は不器用なのかな?」
ボソっと呟いて、筆を取って
新が塗り忘れた場所に、
ポトっと赤いペンキを落とすと
ジワリと広がって、やがて
新が塗った赤いペンキと馴染み合う
少し薄かった赤色に、僕が落とした
赤色が混じって、より一層濃くなった
じっとペンキを見つめて
その強く濃い赤い色を見つめた
「・・・・新」
「会長っ」
名前を呟いた時、丁度新の声が聞こえ
救急箱を手に持った新が戻ってきた
「ちょっと!何してるんです!
ペンキには触らないで下さいよっ」
「あぁ、ごめん。ここ塗り忘れていたから、
少しだけ塗っただけだよ」
「げっ、まだあったんですか・・・
すいません。ありがとうございます」
小さく首をコクっと下げて
新は僕にそう言った
そして、手を見せ下さいと言われ、
見せると、新はせっせと僕の指の手当てを始めた
「こ、これピンセットで取るかな」
そう呟きながら、目を細めて
必死にピンセットで僕の指に刺さったトゲを取ろうとしてくれている。
「ん、んん〜っ!もう、ちょいっ」
何度も持ち方を変えては、
ピンセットで僕の肌を突ついてくる
新の指、プルプルしてる
「・・・・ふふっ」
一生懸命な新を見て、つい笑ってしまった
「な、なんで笑うんですかぁ」
そんな僕を見て、新は少しだけ
怒ったフリをして僕を見た
「いや、こんな小さいトゲ一つで
新はこんなに一生懸命になるんだなぁって思って」
頬に手の甲を付いて、にこりと笑ってそう言った
もう少し、
僕の為に必死になる新が見ていたいな・・・・
なんて
「何言ってるんですか」
「ん?」
口元が緩む僕を見て、
何やら少しだけ真剣な顔つきで
新がそう呟いた
「小さいトゲも大きいトゲも、
こんなのが手に残ってたら後々チクチクと痛みますよ。
あと、手は本当に大事なんですから。
これから色んな作業するし、
日常で一番使うのって手ですよ!」
そんなの分かってるよ って
言おうとしたけど、
「・・・・」
急に、真剣な声でそう言われたから
少し驚いてしまう
「部長さんが言ってましたよ。
会長は無理をし過ぎだって。」
「・・・・舞園が?」
「はい。今回も演技の練習とか
生徒会の書類整理とかで忙しいのに、
俺のトコに来て手伝う暇があるなら
少しは休んでいて下さい」
「・・・・・」
そんな事、言われるなんて思ってなかった。
休もうなんて思ったこともなかった。
「はい。終わりましたよ。」
じっと新を見つめていると、
いつの間にか指は離されていて
人差し指に、絆創膏が巻かれている
「会長?」
小さいトゲに必死になって
別に放っておけば治る傷なのに
「どうしたんですか?具合でも悪いんですか?」
成海の前でさえ、辛いなんて
微塵も顔に出さなかったし、
現に別にそれは慣れた事になってて、
無理をしないでなんて言われても
僕がやらなきゃいけない事だと思うと
体は知らない間に無理をしていた
休んでなんて、気にも留めなかった言葉
なんで、新に言われると
心がポカポカするんだろう
「いや、なんでもないよ」
新が触れた指が暖かい
「ありがとう新」
暖かいのに
「へへっ、いいですよ礼なんて」
ふにゃりと笑ったその笑顔は
前に僕にしていた笑顔とは少しだけ違う
「新・・・」
今になって気付いたけど、
あの時の、僕に向けられた表情は
どれも僕の事を好いて居てくれた時の顔
僕に会う度に顔を赤くして
僕の一言に過剰に反応して
少しだけ戸惑う新が可愛くて
「会長・・・?」
なのに、なんでだろう。
あの時とはやっぱり違う
「新・・・」
僕の顔を覗き込んだ新の手を引いて
背中に手を回してそっと抱き締めた
「か、会長っ??」
びっくりした新は、弱く僕の事を
引き離そうとワタワタしてる。
顔が少しだけ赤くなって
脈拍もトクトクと伝わってくる
だけど
あの時と違う
新から感じる熱も、表情も
その瞳の中に映る僕も
「会長、離して下さいっ」
「どうして?」
「どうしてじゃなくてっ、そのっ」
チラチラと、周りを気にする様にして
新は誰かを探している
「だ、誰かに見られますっ」
新がそう呟いた時、
はっきりと、その名が浮かぶ
「見られちゃうとだめなの?」
「あ、当たり前ですよっこんなっ」
「・・・・・」
「・・・会長?」
なんでなんだろう。
指のトゲも無くなって、
欲しいと思う人もこの手の中に居るのに
胸の辺りが、チクチクと痛む
「成海に、見られたくない?」
「・・・っ」
その名を口にすると、
あの時の新の表情が返ってくる
「・・・・は・・・い」
僕に向けられていたはずの
好きな人に向ける顔
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