アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
丸められたもの
-
生徒会室に行く途中で、また先生に捕まってしまった。
声を掛けて来たのは、英語を担当している長谷部先生だった。来年度、定年を迎える男性の先生だが、先生はいつになく、とてもイキイキした表情で僕に語り掛けてきた。
その話しの内容も、日野の事だった。
先生達の間では最初の頃、何故彼の様な人物がこの学校へ編入して来たのかと、批判を呼ぶ声が多かったみたいだが、最近の彼の生活態度はとても素晴らしい。と少しずつ先生達の間で好評価を得ていると聞かされた。
そして、先生方は必ず『これも君のお陰だね。』と口を揃えて言った。
僕はそれを言われると、苦笑し言葉を返したが、僕は日野が最近良い意味で変わって来た事が自分のお陰だとは思え難い。
日野はきっと、自ら変わろうとしているんだと思う。彼は不真面目で、転校して来た当初は授業中寝てばかりいたみたいだし、僕も彼の事をあまり良く思っていなかった。
でも、彼は変わった。性格は相変わらずお調子者だけど、周りから認められ始める程の確かな変化を見せている。
不真面目から真面目に変わる事は容易な事ではない。
何を思い、何の為なのかは分からないが、変わろうとしている彼は、嫌いじゃない。
「ごめん。遅くなった。」
また一つ、彼を褒めなければならなくなったと思いながら、生徒会室の扉を開いた。中に入ると、誰か来ていていいはずの時間なのに、中にはまだ誰も居なかった。
「…?…」
おかしいな?と思い、中に足を踏み入れると、ソファーの上にはスクールバックが一つ置かれていた。
スクールバックの口は大きくパカリと開かれたままで、そこから覗いていた教科書を見ると、日野の名前が記されている。
日野の鞄があると言う事は、彼は既に生徒会室に来ていたんだ。何か用事があって少しの間席を外しているだけだろうと思い、僕はソファーに腰を掛けた。
そして、徐に携帯を取り出すと、メールが一件入っている。送り主は成海だった。
『悪い。俺と新少し遅れる。』とだけ綴られている。
「遅くなるのか。」
了解。と短文で返信を済ませ、携帯を仕舞った。
日野もそのうち戻って来るだろうと思い、暫くソファーの上でじっとしていると、彼の鞄に目がいく。
鞄からは教科書やノートなどが無造作に顔を出していて、彼が毎日使用している筆記用具も同様に顔を覗かせていた。
この角度から見るだけで分かる。鞄の中身がぐちゃぐちゃ過ぎて、それを正したくなる。
そっと彼の鞄に手を伸ばし、入り乱れた教科書などを整頓すると、鞄の一番奥にぐしゃぐしゃに丸められた紙を見つけた。
「はぁ…もう、こんなにして。」
思わずため息が零れる。
丸められた紙は一枚じゃなかった。
取り出すとその数なんと5枚。
大切な書類だったらどうするんだと、久しぶりに彼に対して呆れが来た。
「…え」
だけど、テニスボール程の大きさになった紙を一つ一つ丁寧に広げシワを伸ばすと、その用紙に記された内容を見て僕はフリーズしてしまう。
「……これって」
1枚目は、英語の小テスト。
2枚目は、日本史の小テスト。
3枚目は、物理の小テスト。
4枚目は、数学の小テスト。
5枚目は、古典の小テスト。
どれも、授業で行われた小テストの用紙だった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
409 / 617