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問いと解答
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「…………」
小テストの用紙を何度も見返しそこに記されているものを確認する。一枚、また一枚と。
見れば見る程、何故彼がこの用紙をぐしゃぐしゃに丸めて、要らない物かの様に鞄の奥底へと突っ込んでいたのか理解出来ない。
小テストは全て、100と採点されている。
「驚いた。」
道理で長谷部先生が喜ぶわけだ。英語は彼が最も不得意としていた科目。それで100を取ったのだから…。
彼の学力がここまで向上しているのが、酷く嬉しくなる。教えてあげて良かった。投げ出さなくて良かったと、満足感と達成感が湧いてくる。
だけど最後の一枚、古典の小テストだけは白紙のままだった。
名前すら書かれておらず、問題に手を付けた形跡が全くない。
「…寝てたのかな?」
不思議に思ったが、彼の事だ。小テストの時、うっかり居眠りをしてしまったんだろうと自己解釈した。
「はぁ。こんなにいい点取ってるなら、一つくらい僕に知らせてくれないかな?」
シワが残る紙を握り締めると、胸の辺りがくすぐったくなる。もう全て小テストの結果を見てしまったんだ。日野がここへ戻って来たら、これを突き出して逆に彼を驚かせてやろう。
『君もやれば出来るじゃないか。』
『英語の小テストで満点を取るのは凄い事だよ。自信を持っていい。』
『毎日、ここまで頑張って良かったね。』
笑ってそう言うと、きっと彼も笑うだろう。
『うん。ありがとう。これでもう 。』
………………
「………」
彼がどんな言葉を返してくるのか考えると、胸がギリリと痛んだ。
勉強はほぼ教え尽くした。最近は、勉強を見てあげてるではなく、問題を与えてあげているだけだ。僕や成海、新が選び抜いて来た過去の問題集を彼に与えて、彼が問題を解き、こちらが採点をする。
間違えた箇所は日野が解るまで教えてあげているが、最近、彼はパーフェクトに問題を解いているから、教えるといった行為自体しなくなった。
なら、僕がしてあげれる事はもう無いんじゃないのか?
「ごめん‼︎いっちゃん‼︎遅れた‼︎」
「⁉︎」
勢い良く扉が開き、日野が中へと入って来た。
「あ、…」
扉の方へと体の向きを変えるのと同時に手に持っていた彼の小テストを背中に隠し、ぐしゃりと丸めてしまった。
心臓がドクン、ドクンと跳ね、日野に気付かれない様に丸めた小テスト用紙をゆっくりと彼の鞄の奥へと押し込む。
「僕も、今来たばかりだから。大丈夫だよ。」
鞄から手を抜き彼に笑ってみせた。
小テストの事、聞くべきなのだろうか。
「そう言えば…ここに来る途中、町田先生と長谷部先生に会ったよ。」
「まっちーとはせべんに?」
彼は先生にまであだ名を付けている。これも以前注意はしたのだが、彼と居る事に慣れ過ぎてそれを注意する事も無くなってしまった。
先生のあだ名よりも、小テストの事だ…。
「最近、授業中居眠りをしなくなったんだってね。」
声は震えていないだろうか。
「おん。せんなったで。」
日野はニカリと笑った。
何に緊張しているのか、自分でも分からないが、日野が言葉を発する度に、ビクビクしている自分がいる。
「小テスト……」
「…ん?」
見たよ。満点を取るなんて良く頑張ったね。
「小テストの結果…どうだった?」
結果なんてもう知っているのに、遠回しにそう聞いてしまう。
「今回の数学の小テスト。特に難しかったでしょ?僕でも解くのに時間が掛かったよ。」
声が微かに震える。日野がいつ、嬉しそうに『満点だった。』と言って来るのかとドキドキしている。
「まぁ、結果が良くなかったとしても、君は今回、3分の1解けていれば良い方なんじゃないかな?」
顔が引きつる中、僕は彼を侮辱する言葉を言った。
褒めてあげようと思っていたのに、僕は彼を馬鹿にする様な事を言い放ってしまった。
「いっちゃん?」
「………」
日野が首を傾げながら、僕の方に近づいて来る。
「小テスト……どうだった?」
「………」
日野が答えたら、僕は笑って沢山褒めてあげよう。
そして、僕はきっとこう言うだろう。
『もう、僕無しでも大丈夫だね。』と。
そしたら、君は何て言うんだろうか。
『もう教えて貰わなくていい。』
そう言うのだろうか。
「………っ」
………馬鹿馬鹿しい。
必要とされなくなる事が寂しいだなんて。
たかが勉強。理解し自分で問題が解けるようになれば、教えていた側は用済みになるだけだ。
彼が独立してくれれば、僕だってようやく彼から解放されて自分の仕事に打ち込める。
「小テストなぁ〜。」
「………」
気の抜けた声が聞こえてくる。
早く僕を驚かせる事を言ってみせてよ。
殆どの科目の小テストで100点取った。後は自分で何とかやっていける。
だから、僕はもう必要ない。ってその言葉を待っていたのに
「あはは、ダメダメやった。」
「……え」
彼は笑って、そう嘘を付いた。
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