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意志
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小さい頃からあいつと一緒に育ってきた。
やきあいつがどんな奴なのか、どんな風に成長して来たかは全部知っちゅう。
ちっさい頃も、馬鹿でかく成長した今もあいつは変わらずアホで馬鹿やった。
おまけに家は極道という名のヤクザもんや。
あいつ自身それを酷く嫌っちょった。家柄のせいで友達もろくに出来ん。ろくに外に出て遊べん。ろくに学校に通えん。
下手に行動出来んような生活を送った挙句、見事にあいつは全てにおいて楽天的な大馬鹿モンに育ってしもうた。
自由きまま。けんど手足には常に組の跡取りという鎖がかけられとる。
そんなあいつを「ください。」なんて言ってくるのはどこの物好きで肝が座った女や思うとったら、そのセリフを言うたのはまさかの男。
「えらいおもろい冗談言うなぁ。」
可笑しくてつい笑ってしまう。
「冗談?男が男を好きになる事はいけないことでしょうか?」
笑いを堪えよったら、真剣な顔でそう言うて来る。さっきまでの顔つきとはまるで違う。
手も声も、震えてない。
会長さんはどうやら本気らしい。
「まぁ、別にいかんとは言うてない。俺もあいつとは何度も寝た仲や。」
「え…」
本気なら尚更。
「聞かされてないか?俺はしょっちゅうあいつと寝よるぞ。」
「…………」
「おまけにあいつは女好きや。いくら会長さんが美人でもあいつのそういうとこは後々火種になる。それに分かっちゅうと思うけんど、あいつは日野組を継がないかん。それがどういう事なのか、あんたには分かるやろ?」
大人気ないけんど、現実は甘くない。
生半可な覚悟で首突っ込まれたらこっちが困る。
「あんた美人やし頭えいやろうし、家庭も安泰しとるやろ。自分から泥沼に首突っ込む様な事はせん方がえい。悪いことは言わん。あいつはやめとけ。」
そう言い放つと会長さんは下を向いた。
さてどんな反応をするのかと様子を伺っとったら、会長さんはより一層強い目を俺に向けてきた。
「女性が好きなら、僕だけを好きになるようにさせます。火種なんかいくらでも消してやります。彼がその道から逃れられないというのなら、僕もその道を歩みます。」
「………」
「僕の家庭は、日野の家庭より世間的には安泰しているかもしれません。だけど桐島さんが思っている様な暖かみのある家庭ではありません。最近家族と言葉を交わしたのはいつだろうと記憶を遡る事が多いくらいです。親子関係がまるで縦社会の様に感じられ、家に帰っても自分は孤独だと思う日々が続いていました。だけど寂しいなんて考えもしなかった。別に一人でも大丈夫だと思っていました。」
「………」
“日野と出会って、寂しいという思いを頻繁に感じるようになった。自分らしくない言動をしたり、どうでもよかった事がどうでもよくなくなった。”
“思わせ振りな態度を取られ、日野のせいでペースが崩れる。そんな彼に対して怒りを覚えるのに、どこか許してしまっている自分がいる。”
“そして彼の家柄についてを知った時も、僕自身不思議と怖いとは思わなかった。好奇な目で見る事も無く、逆に彼についてもっと知りたくなった。”
“日野をちゃんと見てあげれるのは僕しかいない。”
……そう、会長さんは続けた。
「僕は彼がどんな人間であろうと、どんな環境の中で生きて行こうとしていても、僕なら彼に寄り添い、この先一生彼の面倒を見る事が出来ます。」
「…………」
真っ直ぐで強い言葉やった。
思わずまた笑いそうになる。
会長さんは無茶苦茶言いよるけんど、生半可な覚悟やないらしい。
「会長さんから見て龍はどう思う?」
「馬鹿です。」
そして随分冷静になった会長さんは真顔でそう言い放った。
それが今日一ウケて『間違いない。』と苦笑してしまった。
「くくっ…ええなぁ。肝が座っとる。あんたの気持ちは分かった。」
あいつの事をこんなに思うてくれる人が現れるなんてなぁ。
「会長さんが知りたい事。俺が話せる範囲で話しちゃる。」
嬉しいのか分からんけんど、可笑しくて涙が出る。
指で軽く拭って俺は一度立ち上がった。
「けんど、条件がある。」
「条件?」
会長さんがどんだけ強い意志を俺に伝えても、所詮俺は保護者代理や。
その意志を伝え通らないかんもんがあんたにはある。
「ちっと、返杯に付き合ってや。」
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