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笑顔と言葉
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暫く沈黙が流れた。当たり前だけど、眼鏡が言った事にきっとお袋さんはびっくりしてると思う。
というか俺だってびっくりしてる。
眼鏡が言わなかったら、きっと俺が言ってた言葉だったけど、俺はこいつみたいに堂々とその言葉を言えなかっただろう。
「…………」
「……………」
「…………」
背中に刺さる視線が痛い。何か俺も言わなくちゃいけないのに、怖くて何も言えない。
眼鏡は、ただ真っ直ぐとお袋さんを見てる。ぎゅぅっと眼鏡の手を握りしめると、眼鏡もそれに応えて握り返してくれた。
「それ、本当なの?新くん」
「っ、」
沈黙の中で、俺へと投げかけられた言葉。
「成海と付き合ってるって、本当?」
落ち着いた声、背中に感じる鋭い視線が、俺の焦りと不安を加速させていく。
「だからそうだって言ってんだろ」
「成海、少し黙ってて。あたしは新くんに聞いてるの」
そうだよ。俺に聞かれてる事だ。眼鏡はちゃんと言ってくれた。
隠す事もせず、偽る事もなく、俺との事をちゃんと切り出してくれたんだ。
「っ……」
でも言えばどうなる?反対されるんじゃないのか…?
俺なんかが、こいつと付き合ってるだなんて……
「……付き合って…ます…」
「……………」
お袋さんに嫌われてしまうんじゃないのか?
俺なんかが、こいつの事を好きだなんて…
「あの…俺……」
「…………」
「…な、成海先輩の事……」
だけど、言わなくちゃ何も聞いてもらえない。
伝えなくちゃ、何も伝わらない。
俺が逃げたら、きっと認めてもらえない。
「す、好き……なんです……」
語尾が濁った。なんてか細い声。
「…………」
「……………」
そしてまた、繰り返される沈黙。
心臓が喉から出そうだ。緊張が舞い戻ってきて息が詰まりそうだ。肩が震えて止まらない。
相変わらず怖くてお袋さんの方へは振り向けなかった。
時計の針の音が鮮明に聞こえる中で、お袋さんがため息をついた事に気付いた。
「す……すみません…」
「……どうして謝るの?」
「あ、え…と……その…」
お袋さんの声が少しだけ低くなった。
眼鏡と同じだ。怒った時の、眼鏡と同じ反応……
「謝るような事なのかしら?」
「……っ…」
駄目だ……ちゃんとしねえとこのままじゃ……
「あのっ‼︎俺‼︎」
意を決し、勢いよくお袋さんの方へと振り向いた。
「お、俺なんかがっ、成海先輩と付き合ってるなんておこがましいかもしれないですけどっ、俺、本気ですっ‼︎」
「………」
ああもう駄目だ、目が回るっ……
「お、おとこ…同士だけど、本気で好きなんです…っ…色々と問題があるのは分かってますっ…でも、その……ぁ、だ、だからその…っ」
くっそ、マジで頭ズキズキしてきたっ
どうしてこう俺はボキャブラリーが無いんだっ‼︎
「っえと……」
頭が沸騰しそうだ。振り向いたのはいいが目が開けられない。
眼鏡は何も言わなくて、お袋さんも何も言わなかった。
俺の震える声だけが部屋の中へと消えていく。
「……成海…先輩と付き合う事を……」
お袋さんとたった2回しか顔を合わせてない俺が、こんな事を言っていいのだろうか。
いや、もう色々と言っちまってる。後戻りなんて出来ない。なら、最後まで言うしかない。
「み、認めて…ほしいです……」
「…………」
言った‼︎言ったぞ俺よ‼︎‼︎
「……っ……」
心の中で涙を流し、お袋さんの反応を待っていた。
第一声で何を言われるか。怖くて怖くて肩をブルブルと震わせていた時だった。
「あぁぁぁぁあんっ‼︎新くん可愛いっ‼︎」
「えっ」
ガタン、と椅子から立ち上がる音と共に、お袋さんの甲高い声が聞こえ、そしてなぜか頬を両手で包み込まれている。
「え……あ……?」
びっくりして目を開けると、身を乗り出して、満面の笑みで俺の頬を両手で包み込むお袋さんがいる。
というより、あれ?……
「あの……怒って…ないんですか?」
「あらどうして?全然怒ってないわよ?むしろとても嬉しいわ」
う、嬉しい???
「うふふっ、少し意地悪してしまってごめんなさい。新くんの反応が可愛いかったからつい」
「…え……」
待て、どういう事だ?
「め、眼鏡……」
全く今の状況について行けず、眼鏡へと救いを求めるようにして視線を向けると、眼鏡は何やら口元を手で覆って肩を小刻みに震わせていた。
「ぶふっ………」
「なっ⁉︎」
こいつ、笑ってやがるっ‼︎
「てめっ‼︎なんで笑ってんだよ‼︎」
思わず眼鏡の胸ぐらを掴む。先程よりも強く。
そしたら眼鏡は怒る俺を見てまた笑った。
「っ…や、お前が俺の事『成海先輩』って呼ぶから…」
笑うとこそこかよ‼︎‼︎‼︎ふざけんな‼︎‼︎
お袋さんの前でてめえの事眼鏡呼ばわり出来ねえだろが‼︎
「顔真っ赤にしてプルプル震えながら『認めてください』なんて、あぁんもう可愛い過ぎてたまらないわっ」
「確かに…子犬みてえだったな…っ…」
っ‼︎なんなんだこの親子は‼︎‼︎
似てる‼︎クソがつく程似てるよ‼︎さすが親子だなおい‼︎
眼鏡、分かったよてめえの性格はお袋さん譲りだよボケ‼︎‼︎
「くくっ……」
「てんめぇ……」
いつまで笑ってんだこんちくしょう…
「……成海の事、本気で好きと言ってくれる人が現れるなんて」
俺の真剣な告白を笑い続ける眼鏡の腹を殴ってやろうかと拳を握った時、柔らかい声でお袋さんがそう言った。
「認めるもなにも、それを決めるのはあたしじゃないわ」
「え……」
「男同士、いいじゃない。好き同士が付き合う事はとても素敵な事よ」
「………っ」
「あたしに伝えるのはきっと怖かったでしょう?でもありがとう。ちゃんと伝えてくれて」
「…………」
胸ぐらを掴んでた手を離した。
お袋さんと向き合って、ちゃんと目を見て小さく頷いた。
眼鏡は相変わらず隣で笑いを堪えてるけど、こいつの事は後回しだ。後で思いっきり殴ってやる。
「いつでも遊びに来てね。あなたとはもっと色んな話しがしたいわ」
「は、はい……」
どこか、俺は眼鏡のお袋さんの事が苦手だ。なんて思ってた。
やたらと飛び付いてくるし、目が合えばお色気満点の視線で見つめられるから変にドキドキするし……
「成海をよろしくね。新くん」
だけど、そう言ってにこりと微笑んだお袋さんの笑顔と言葉はとても眩しくて、温かかくて、母親の優しさというものに触れた気がした。
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