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手掛かり
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「台所好きに使っていいから。あ、でも呉々も火の元には気を付けろよ。あと包丁。手切らない様に注意しろよ」
「……わ、わかってる」
土曜日になり、起きて俺と新は近くのスーパーに買い物に行き、食材を購入して家に戻って来た。
「……用事って、すぐ済むのか?」
新はどうやら浮かない顔をしている。
一人で調理場に立つのが不安なのか、それとも……
「すぐ終わらす様にするから。オムライス出来る頃には帰って来るよ」
「オムライスなんてすぐ出来ちまうぞ」
「お前は普通の倍以上に時間かかるだろ」
「ゔ……」
「じゃ、行ってくるから」
不安な表情を見せる新に留守番を任せ、俺は家を出た。
時刻は午前10時。新のオムライスが出来上がるのは午後13時くらいだと仮定して、それまでに家に戻れば大丈夫なんだけど、正直俺自身も、新一人で料理をさせるのはまだまだ不安が残る。
本当になるべく早く戻る様にしなければ。
「さてと……」
駅まで続く道の先に目をやる。
暑くなってきた外の気温に合わせ、上の服はシャツ一枚で着たのは正解だったな。
炎天と太陽が地を照らす中、最寄り駅まで徒歩で15分。そこから電車を乗り継ぎ、到着したのは新といつもデートしている街。
繁華街を抜け、夜とは違い、シンと静まり返っているその場に到着する。
「……趣味悪」
目の前に広がる無数の怪しげな店。看板はピンクや紫、人の欲情を誘う色があちこちに設置されている。
店の前にはスーツを身に纏った勧誘を仕事としている男達。
「すみません」
「お?」
「少しお時間頂いてもよろしいですか?」
まずはこいつらからいくか。
「おお!見かけない方ですなあ!あ、もしかしてウチのスカウト受けに来て…」
「いえ違います」
「えっ」
“秋人達が街で知らない男と歩いてるのを見たって…”
新が言っていたのは、確かこの街。
そして昼間でも“そういう事”が出来る場所はここしかない。
「少しお聞きしたい事があるのですが」
新の母親が一度こういう事をしてしまった人、覚えてしまった人だとするなら、この場所に来れば、新の母親について何かしらの情報が得られるかもしれないし、もしかしたら会えるかもしれない。
新の母親が、本当はここで何をしているのか…。という事を俺はどうしても知らなければならない。
新はあの時、母親の顔を見ていなかったけど、あの別れ際での新の母親が見せた表情、どうしても何か引っかかる。
本当にただその行為にハマってしまい抜け出せなくなっているのか、それとも……
「う〜ん、聞く限り、その様な女性客はウチに来てないなぁ〜。何しろウチはSM専門でしかも当ビル内だけでのサービス提供となっておりますので〜」
「……そう、ですか」
聞かなくていい情報を手に入れてしまった。
「担当の者を連れ出して街を徘徊する事は禁じていますので」
「なら、この付近で先程お話しした女性を見かけた事は?」
「ん〜、写真か何かあればお答え出来るかもしれないんですが、口頭だけだと何とも言えませんね」
「写真……」
確かに、特徴、身なりを口頭だけで伝えその人物を探すのは難しい。
「分かりました。ありがとうございます」
写真か何かあればよかったんだろうけど、生憎そんなものは持ってない。そう言えば、新の家でも家族や新自身の写真やアルバムといったものを見た事はない。
「お兄さん!ここで知り合ったのもきっと何かの縁ですよ!どうですか?ウチの店で働い…」
「結構です」
どさくさに紛れ、名刺を渡して来ようとしたスカウトマンの手を振り払い、再び歩き出す。
「全部回るのはキツイな」
道端に連なる店を見るとため息がこぼれる。
法を守ってない店も多いだろうから、店に入る際年齢確認をされる事はまず無いと思うが、万が一何かあったら後が面倒だ。
新にも、なるべく俺がここに来たという事は隠しておきたい。
「夜は来れねえしな……」
時間帯もそうだ。昼間だからこそまだこの区間に入る事が出来たけど、さすがに夜は厳しい。
付き纏ってくるしつこいスカウトマンも増えそうだし今の様にはすり抜けられないだろう。
ホテル街とは違ったこの場所は、嫌な空気を放ってる。
「せめてどこの店通ってんのか分かると助かるんだけどな…」
と、ため息を吐いた時、道端に落ちていた小さな名刺に目が行った。
「……名刺……」
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