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お礼です
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「ほんまごめん‼︎」
「…………」
翌日、僕の教室に日野が来て、真っ先にそう謝られた。
結局日野から連絡があったのはつい先程。
着信音が鳴った瞬間、一瞬非通知からの電話だと思ってしまった僕は電話に出るのに少し躊躇ってしまった。
だが、画面に表示されたのは日野の名前。
ホッとする中、電話に出た。
そして今から会いに行くと言われ教室の前で待っていたのだが……
「いやぁ〜昨日電話の途中でうっかり寝てしもうて……その、ごめんな?」
僕の機嫌を伺うように、日野はヘコヘコと何度も謝ってきた。
別に怒っているわけではないのだけれど、昨日僕が取った行動を思い出すとつい、恥ずかしくて黙り込んでしまう。
「……ありゃ……やっぱり怒っちゅう?」
……この様子からして、日野はもしかして昨日の電話内容を覚えてない?
「…覚えてないの?」
「ん?……な、なにを?」
「…………」
やっぱり。
間抜けな顔をした日野を見て僕は二つ以上の意味でため息がこぼれた。
「いっちゃん?」
「……君ってやっぱり最低だよね」
「えっ⁉︎」
更に恥ずかしさが溢れる。
まずいと思い日野に背を向けると、僕の態度を見て彼は焦り始めた。
だが僕は尚も日野に背を向け、「次移動だから」と適当な嘘を付いて教室に戻った。
僕の背中を、日野がどんな顔で見てたかなんて考えてあげない。
そもそも、覚えてないって、ほんとに意味がわからない。
二度と日野と電話なんてしない。
……っ、ほんと最低……
「月島、お前顔赤いけど大丈夫か?」
席に戻ると、付近にいたクラスメイトが僕の顔を覗き込んでくる。
「大丈夫だよ」
「ほんとか?耳まで真っ赤だぞ?」
「え……」
「熱あるんじゃねえの?保健室行ってこいよ」
咄嗟に顔を背けてしまう。
一言、クラスメイトに「ひどくなったら行ってみる」と伝え、僕は窓の外を眺めた。
薄っすらと窓に映る自分の顔は、確かに真っ赤だった。
おまけに心臓がバクバクいっててうるさい。
これも全部日野のせいだ。
「…………覚えてないのか」
薄情な日野に腹が立ちながらも、少し残念に思ってしまう自分と、覚えてなくてよかったと思う自分がいる。
いや、覚えてなくてよかったんだきっと。
昨日の僕はおかしかったんだ。だから、僕も早く忘れよう。
「月島、具合悪いとこ悪いんだけどさ」
気持ちを落ち着かせようとしていたら、肩をトントンと叩かれ、先程のクラスメイトに呼ばれる。
「ん、また一年がお前に用があるって」
「……?」
クラスメイトが教室の入り口を指さす。
「わかった。ありがとう」
立ち上がり、僕は入り口の方に向かった。
廊下に出ると、そこには水田くんが。
「僕に用があるって、水田くんの事だったのか」
「おはようございます、月島先輩」
僕を見るなり、パッと明るい顔を見せる。
廊下の窓から差し込む太陽の光が、水田くんの細くて綺麗なクリーム色の髪を照らした。
風が吹き、ふわりと彼の髪がなびく。
「どうしたの?もしかして勉強の事かな?」
「あ……はい、それもあるんですけど」
微笑むと、水田くんは頬を赤らめ、両手で握り締めていた小さな紙袋を僕に渡してきた。
「……?」
「あの、これ勉強を見てもらってるお礼です」
更に真っ赤になる水田くん。
震える手で真っ直ぐと紙袋を差し出され、受け取ると水田くんは後ろに一歩下がった。
「お礼だなんて、そんなの気にしなくていいのに」
「いえっ、ボクがしたいだけなので‼︎……め、迷惑でしたら捨ててもらってかまわないので……」
自信なさ気に呟いた水田くんを見ると、頭を撫でてあげたくなった。
捨てるだなんてとんでもない。と彼に言うと、水田くんは嬉しそうに笑った。
「ありがとう。開けてもいいかな?」
「ど、どうぞ……」
こういうのは、結構嬉しい。
別に見返りがほしいわけじゃないけど、素直に嬉しい。
小さな紙袋の中には、細長くて更に小さな包みに入った物が。
丁寧に袋を開け、中身を取り出す。
「これ……」
入っていたのは、一本のボールペン。
「その……前にそれと同じボールペンを無くしたと聞いたので……」
形状、色、デザイン、彼が言ったように、以前まで僕が使っていたボールペンと全く同じものだった。
「ありがとう。凄く嬉しいよ」
「ほ、ほんとですか⁉︎」
「うん」
握るとしっくりくるお気に入りのボールペン。
無くした覚えはないけれど、やっぱりお気に入りのものが無くなったのは結構残念だと思っていた。
今度こそ、無くさないようにしないと。
「大事にするよ」
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