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約束破り
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いっちゃんに呼び出されて二人で校舎の外へ出た。
人気の無い場所へと向かういっちゃんは周りを気にしゆうみたいやった。
目的地にたどり着くと、そこは前にいっちゃんと体育祭の時に来た場所。
壁に背中を着けて腕を組むいっちゃんは怪訝な表情で俺を見上げる。
「大事な話しがあるんだ」
「大事な話し?」
コクっといっちゃんが頷く。
尚も周りを気にしながら、いっちゃんは話しを続けた。
「その……コレの事なんだけど」
自分の肩を触りながら控えめにそう言われ、俺は初め何のことか分からず首を傾げてしまう。
「バレたかも……しれない」
「え?」
バレた。その言葉を聞いてようやく理解する事になる。
……つまりは、そういう事。
「誰に?いつ?」
「わからない」
分からんのに、どうしてバレた事が分かるの?
青ざめるいっちゃんの顔。俺は今までこんな状況を何度も経験してきた。今更焦る必要なんてないけど、いっちゃんにとっては大問題なはず。
「いっちゃん、何でバレたと思うたが?」
「…………」
「誰かに見られたなら、そいつ黙らせたらえいやん?」
「な……」
別に焦る事ないのに。
バレたところで、こっちがどうしてビクビクせないかんがよ。
まさか、最近いっちゃんの様子おかしかったのってそれが原因?
「いっちゃん大丈夫やってそんな暗い顔しなや」
「…………」
ポン、といっちゃんの肩に手を置く。
するといっちゃんは震え始めた。
「黙らせるってなに……」
「え?そのまんまの意味やけど。そいつ見つけ出して誰にも言えんようにすれば簡単な話しやん」
「君は今までもそうしてきたの?」
……?……なんで怒っちゅうが?
「そうやけど?」
「っ、」
どうして?普通な事やん。まぁ、場合にもよるけんど。
口止めさす方法なんていくらでもある。手段が違うだけで、俺らの世界ではその方法は至ってシンプルや。
「……誰が見たかは僕にも分からない。可能性があるっていう話しだ」
「可能性だけでも、早いうちに手を打った方がえいやろ?」
「君はっ‼︎………僕が何を言いたいか分かってないでしょ…」
「……?」
いっちゃんがどうしてそんなに怒っちゅうのか分からん。
なんでそんなに泣きそうな顔しちゅうのか分からん。
この問題って、そんなにやばい事なが?
「…僕はこの学園の理事長の息子だ。生徒会長だ。生徒の代表だ……」
「……うん」
「その僕がこんなものを体に彫っているという事がバレれば、どうなると思う?」
「……こんなものってなんや……」
「っ……」
どうなるって……そんなん知らんがな……
だいたい、それを全部覚悟していっちゃんはそうしてくれたがやろ?
「……すまん……ちゃんと話そう?…」
いかんいかん……カッとなるな俺。
いっちゃんは多分混乱しちゅうだけや。不安なだけや。
「どうしてバレたと思ったが?」
一呼吸ついて、興奮気味のいっちゃんに向かって出来るだけ優しい口調で聞いてみる。
いっちゃんも深呼吸をして俺の目を見て話してくれた。
「……分からない」
「分からんってそれじゃなんの解決にもならんやん」
「…………そうだけど」
「はぁ……いっちゃんどうしたが?らしくないで」
可能性のクソもない事に悩まされてどうするがよ。
別にそれならこれからバレんように更に警戒しとけばいいだけの話しやんか。もう……
「まぁ分かった。ごめんな。いっちゃんにとっては大事な事やもんな」
「…もしバレた事が本当だとして」
「……ん?」
「コレを見た人物が誰か分かっても…どうか君は何もしないでほしい」
お願い。といっちゃんは続けて言うた。
俺が何をするか、どんな想像しちゅうか知らんけんど、いっちゃんの顔は不安でいっぱいって感じやった。
「うん、わかった。……大丈夫やで。俺は何もせんよ」
俺“は”……な。
ニコリと笑ってみせると、いっちゃんはホッとした顔をする。
……うん。そうやな。俺の人生の半分はいっちゃんが貰ってくれたもんね。やき俺が手を出す事は無いかもしれんけんど……
「………………」
いっちゃんは、その肩にあるものが何を示すか、多分まだ理解出来てない。
「俺、いっちゃんの言う通りにするよ」
大丈夫。最悪な事態にはならんよ。
ただ、そうなった時は……いっちゃんにも理解してもらわんといかんけど。
自分が足を突っ込んだ世界がどういうもんなのかを。
「怖い?誰かに知られるのが」
「……そりゃ、ね……」
「ふふ、怖がっちゅういっちゃん可愛い」
けんど、いっちゃんには知ってほしくないなぁ。
みんなの人気者で、優等生で、かっこよくて優しい生徒会長さんを俺は見よりたいなぁ。
「……じゃあ、どうする?」
「…………」
壁に手をついていっちゃんを見下ろす。
何か言いたげに口を開くいっちゃん。
何を言おうとしゆうのかは何となく分かった。
「俺の課題はナルにお願いしてみるわ」
「…………うん」
「あー、けんどお昼どうしようなぁ」
「…僕が時間をズラして行くよ」
「お、そうか。分かった」
「…………」
いっちゃん、大丈夫やきそんな顔せんといてや。
別にこれが最後ってわけじゃないやろ?
「一旦友達に戻るだけやん」
「………………」
いっちゃんが言いたかった事は、そう言うこと。
俺は大丈夫やで。こんなん別に辛い事やないやん。
「…課題全部終わったら僕に見せて……最終チェックはするから」
「おん」
しばらく学校では下手な事せん為に、俺とは友達ってことで。
確かに最近ちと近付き過ぎたしなぁ。学校でもエッチな事してしもうたりもしたし。
……そんなんしよったらいつかは下手打つよなぁ。
「ごめんね。少しの間だから……」
「んーん。俺は大丈夫」
まぁ、いっちゃんの不安が無くなるまでや。
学校では恋人じゃなくても俺は平気。
「日野……」
「ん?」
いっちゃんが先に歩き出して校舎の方を向く。
木漏れ日に覆われるいっちゃんの背中はとても綺麗やった。
「好きだよ」
「…………」
いっちゃんがそう呟いた瞬間、少し強い風が吹く。
胸がどきりとした。
……いっちゃんって、ずるいよなぁ。
「はは、俺……全然平気やないかも……」
大丈夫じゃないやん……友達に戻った途端に、抱き締めたいとか思ってしもうたやん。
「いっちゃん……」
「っ?」
後ろからいっちゃんを抱き締めた。
あったかい……久しぶりにいっちゃんに触った……
俺、多分友達のフリなんてそれさえももう出来ん。
「約束破ってしもうた……ごめんな」
「…………」
「俺もちゃんと覚悟決めるわ。せめて卒業するまではちゃんと学生やる……」
少しの間だけ。少しだけ我慢しような。
俺も頑張る。
「やき……覚悟決める為に……」
大丈夫、終わりじゃない。むしろ始まりやろ……?
「約束、破らせて?」
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