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自由の身と引き換えに
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俺は極道の長の息子で、昔っから普通の人とはちと離れた世界で育った。
組を継ぐなんて今でも嫌やし、考えたくない。
周りのみんなが普通に将来の夢とか語り合いゆうのがすんごく羨ましかった。
「やき俺は帰らん言ゆうやんかぁ」
けんど、今じゃ俺は自由の身。
『仕方ないやろが、今回の件について他の幹部の奴らがおまんから直接話聞くまで認めん言ゆうがやき』
桐島から連絡が来て、授業を抜けて人気の少ない4階のトイレ前で電話をする。
数日振りに聞いた桐島の声は疲れ果てちょった。
「俺はもう組を抜けたんですぅ〜。関係ないもん」
『くそボケカスが‼︎おまんの代わりに会長さんがうちの組を継ぐってゆう話も出ゆうがぞ‼︎』
「は?なんでいっちゃんが…」
『忘れたがか。会長さんはおまんの代わりにあれ(刺青)を入れたがぞ。親父さんがそれを条件として出した時点で、こうなる事は分かっちょったやろ』
いやいや、ちょっと待ってや。
そんな話俺は聞いてない。あん時はあの場から無理やり連れ出されたし、親父といっちゃんが何を話したかなんて分かるわけないやん。
『とにかく、今週末や。会長さんも連れて一旦こっち戻って来い』
「ちょっと待てや、そんなん無理に決まっちゅうやんか」
だって俺、今いっちゃんと絶交中やし……
そう伝えると、桐島は盛大に呆れた。
理由を聞かれたけんど、それは言わんかった。
大体、いっちゃんからも親父とそんな取り引きしたなんて話聞いてない。
俺はてっきり、親父に覚悟を見せる為にそうしたがやと……
『ああもうえい。今から俺がそっち戻るき、俺が会長さんに話をする』
「ふざけんなちゃ‼︎今が俺らにとってどれ程大事な時期か分かって言ゆうがか‼︎」
『大事な時期ぃ?』
桐島の声質が変わる。睨み付ける様な、低くて俺をいつも本気で叱る時の声。
「……じゅ、受験とか?」
『あー、じゃあおまんは帰って来んでかまんわ。俺が龍はお受験で忙しいって伝えちょくわ』
じゃあって、なんや……
『そうよなぁ、おまんはもう関係ないもんなぁ?』
挑発するような口調。……腹立つ。
やっといっちゃんと同じ場所目指して頑張れると思いよったのに、なんで今になってそんな話をする。
『今日の夜にはそっち着く様にするき、会長さんを連れて来ぃよ』
そう言い残し、桐島は強制的に電話を切った。
どうしたらいいか分からずその場に立ち尽くしてしまう。
とてもじゃないけど、いっちゃんに言える内容やない。
友達の関係……に戻った原因がそこやのに。
いっちゃんの親父さんはこの学校の理事長で、いっちゃんは会長で……
ずっと普通の人生を歩んで来たいっちゃんに、いきなり組を継げなんて、言えるわけがない。
「……そんなん絶対させんわ」
二人でここ卒業して、おんなじ大学行って、これからずっと一緒に生きていきたい。
こんなん思ったの初めてやった。
今更、めちゃくちゃにされてたまるか。
こんな事なら電話に出んかったら良かった。
知らんままやったら何とかやり過ごせたかもしれんのに。
「……ん?」
むしゃくしゃする中、飲み物でも買いに行こうと思い下の階に向かう途中、階段から一番近い2年の教室に慌てて誰かが入って行くのが見えた。
やけに周りを気にしながら入って行ったのが気になって、教室を覗いてみる。
体育の授業らしく、それぞれの机の上には制服が置かれ、教室内は静かやった。
ほんでさっき入っていった生徒は挙動不審な動きをしながら、ある机に向かう。
確かこの教室って……姫の……
それに、あのネクタイの色……一年や。
「なぁ」
「ひっ‼︎」
「それ、何しゆうが?」
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