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愛される
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外から小さな虫の鳴き声が聞こえてくる程、静かな時間が暫く続いた。
子供みたいに泣き続けていた日野の背中を何度も摩りながら、僕も初めて子供みたいに泣いた。
「綺麗なところだね。どうしてここじゃなくてアパートに住んでるの?」
時間が経ってお互い落ち着いた後、じっくりと部屋の中を徘徊してみる。
和風建築。立体的な龍の木彫りが天井に広がっていて、大きな窓には満月がすっぽりと収まっていた。
「ここは普段使わんとこやき…それに学校からも遠いし」
そう答えた日野に、どのくらい距離があるのかと聞くと、車で3時間かかると言われる。
窓に手をつき、夜空を見上げる。
都心から少し離れた場所。たった3時間程度離れるだけでこんなにも夜空が美しい。
「……?……なに?」
暫く月を眺めていると、後ろから日野が抱きついてくる。
「いっちゃん、ここ気に入った?」
嬉しそうな日野の声。柔らかくて、小さな子に接するように僕の耳元で囁く日野が言った言葉。
「そうだね…」
「ふふ……じゃあ、いっちゃんにあげる」
「いいよそんな。僕にはもったいない」
冗談っぽく笑って返すと、僕の肩に顔を乗せた日野はまた柔らかく笑った。
「じゃあ俺といっちゃん、二人で使お?」
「……二人で?」
「そ。外じゃ出来んこともここでなら出来るやろ?」
どういう事なのか聞こうとすると、振り向かせられ日野にキスをされてしまう。
「……、ちょっと…いきなり」
触れるだけのキスが離れていくと、すぐに力強く抱き締められる。
窓につく背中が少し冷たかった。
「駄目や……考えたらいかんって思うけんど、やっぱり悔しい……」
呟く度に、抱き締める力が強くなる。
平然を装っていたのか、ふとした瞬間 日野の声が暗くなってしまう。
「…………そういえば、課題終わった?」
「えっ⁉︎」
日野の背中に手を回し、小声で呟くと気の抜けた声をあげる。
「か、課題?…今そんな事言いゆう場合や……」
「終わったの?終わってないの?」
「あ、え?……えっと、あっ、と……」
固い空気がプツンと切れ、いつも言い逃れをしようとする慌てた日野に戻る。
普段なら呆れてしまうところだけど、なんだか今は安心する。
「……ご、ごめん。あとちょっとながやけんど…」
指先を合わせながら、似合わない上目遣い。
「わかった。じゃあ終わったら僕に見せてね」
胸の奥がくすぐったくてつい笑ってしまう。
隙を見て日野にキスをすると、これまた間の抜けた顔をするから面白い。
「……い、いっちゃん?」
自分で制服の前ボタンを一つ一つ外していく。
少し手が震えてしまった。
「ど、どうしたぞ……急に…」
僕の裸なんて見慣れているくせに、日野は真っ赤になりながら慌てて目を手で覆い始めた。
本当に、こういう反応をされるからたまらない。
「わっ、いっちゃんっ……」
日野のシャツに手をかけ、肩からゆっくりと脱がす。
バランスの取れた日野の体に広がる二つの龍の刺青。
「……っ……やっぱり嫌?」
見惚れていると、控えめに日野が呟く。
確かに、これが日野の肩に揃う事によって起こるこれからの事態を受け入れるにはまだ時間がかかりそうだ。
けれど、改めて嫌かと聞かれると、そうでもないと思っている自分がいる。
「俺な……別にいっちゃんの事要らんなったわけやないで」
「……うん」
分かってるよ。そんな事くらい。
あれ程 組を継ぐことを拒んでいた日野。
きっと沢山悩んで、それでも逃げ続けていたんだろう。
だけど、日野がこの刺青から逃げる事をしなければ、僕は日野に出会う事はなかった。
これは、僕達にとってキッカケでもあるんだ。
「……綺麗だね」
「え……」
新しく刻まれた方を指先でなぞる。
僕と同じものがここにある。
それもまた優越だ。
「君に会えて良かった」
心の底からそう思うと、自然と笑みがこぼれる。
視界が開けたように目の前がキラキラと輝いて温かい。
「……っ……俺やって」
君に出会えて良かった。
好きになって、好きになってもらえて良かった。
告げると、日野に抱き締められる。
日野の大きな体にすっぽりと収まってしまう。
肌と肌が密着して、目の前に広がる青い龍を見ると目の奥が熱くなってしまう。
「僕って……幸せ者…だね」
語尾が震える。
気付けばまた涙が溢れてしまっていた。
こんなにも感情的に泣いてしまう事なんて無いはずなのに、どうしてか日野の前だと強がれない。
「顔見たい……ちゃんと、もっと…いっちゃんの声聞きたい……」
少し体を離し、日野の手が僕の頬を包む。
僕を見下ろす日野の目は優しくて、僕を安心させるように微笑む。
「俺、前に言うたやろ?」
「……?……」
「俺なら、いっちゃんを幸せに出来るって」
ニカリと歯を見せて笑う日野の言葉に、胸がまた苦しくなる。
「…っそうだね……」
あの時は、こんなに日野にハマるなんて思ってもみなかった。想像もつかなかった。
「覚悟してな?俺は結構しつこいで」
「…うん」
「いっちゃんが嫌言うても、絶対離さんで」
「……っ……う、ん」
「ふふっ、いっちゃんの泣き顔可愛い」
「……見ないで……」
「あっ、隠したらいかんて。もっと見せて」
日野といると安心してしまう。
少しくらいはこうやって泣いてもいいのかって思ってしまう。
「俺な、いっちゃんは愛される方が似合うと思うがよ」
「……なにそれ」
必死に見られないようにしていたのに、手首を掴まれ妨害されてしまう。
いたずらに、それでも優しく笑う日野がなんだかかっこよくてドキドキする。
「いっぱい甘やかしちゃるき、俺の愛を受け止めてな」
「……セリフがくさいよ」
「なにっ⁉︎今世紀最大の告白やで‼︎」
「ふふっ、大袈裟過ぎ」
日野の手が僕の手と重なる。
指が絡み合って、日野の額が僕の額とくっつく。
「……恥ずかしい」
「そうやな」
日野が優しく呟いた後、ゆっくりと唇が重なった。
最初は触れるだけ。離れて、また重なって。
次は、舌が絡み合うキス。
日野の舌を受け入れて、舌先を何度も絡め、ゆっくりと吸ったり、また絡めたり。
「……っ……は…」
なんだかドキドキしてしまう。
僕は変な病気にでもかかってしまったんだろうか。
「俺に全部見せて」
日野が囁く度に体が震える。
キスをされるだけで、胸が苦しくなる。
「……いっちゃんの全部、俺に見せて」
愛されるって、言葉に出来ない程幸せだ……
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