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待つ人のところへ
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役員会議が終わると、一旦生徒会室に戻る。
数分話した後はとりあえず解散。
大崎と俺は今日の会議内容についての報告書を作成する為に居残りだ。
「大崎、後は俺やっとくからお前はもう帰れよ」
「え…でも」
「秋人の奴、迎えに来てんだろ?」
「それを言うなら君だって」
柔らかく笑う大崎の目に、外の夕焼け色が写り込んだ。
風が吹いてカーテンを揺らす。まだまだ慣れない、あの人達が居ないこの部屋の風景はとても静かだ。
「そうだ。舞園先輩がね、アルバム出来たから明日のお昼休み見に来てほしいって」
「そういや今年から作るって言ってたな」
「うん。見開きに、僕達からのメッセージを書いてほしいんだって」
「メッセージねぇ」
会長には沢山世話になったから書く事は山ほどある。
けど、あいつに対して書くメッセージなんて全然思い当たらないんだけど。
「部長さん、今年の文化祭が最後だからって言って、もう演劇の話も生徒会にきてたよ」
「まじで?もう演劇は懲り懲りだ……」
「まぁまぁ……僕は去年迷惑かけちゃったから、今年は頑張りたいなって思ってるよ」
「お前はアレの怖さを知らねえからそんな事言えんだよ…」
はぁ、とため息が出る。
アドリブめちゃくちゃかましてきやがるあんな舞台は正直ごめんだ。
つか、部長さんって確かプロのカメラマンになる為に留学するとか言ってたよな……
てっきり劇団にでも入るのかと思っていたけど、部長さんの兄弟がプロカメラマンっていうのをつい最近知って、あの写真撮りたがりと被写体を追いかける執念を見れば納得した。
「よし、終わりっと」
雑談をしている間に、報告書を書き終え生徒会室を出る。
「じゃあ、お疲れ様。また明日ね」
「おう」
大崎とは教室で別れて、俺もすぐに行かなきゃいけないとこがある。
「新」
帰る支度を済まして教室を出ようとすると、入り口から俺を呼ぶ優しい声が。
「会長っ」
「ふふっ、今は会長じゃないよ」
扉にもたれかかりながら、クスクスと笑う会長。
最近忙しかったし、それに会長が生徒会を引退してからあんま会う機会がなかったから、久しぶりに会うとなんだか緊張する。
「まだ帰ってなかったんですね」
「進学の事でちょっとね」
理事長の親父さんを持つ会長は、親父さんの後を継ぐ為に超名門大学への進学が決まったみたいで、引退した後も忙しそうだった。
「この前の休み旅行に行ってたんだ。これお土産」
「旅行?」
「うん。四国の方にね。大崎にも渡したかったんだけど、もう帰っちゃったかな?」
「はい、ついさっき…」
茶色くて白いロゴが入った紙袋を受け取る。
交代式が終わって数日経った後に知った事だけど、あのうるさい巨人は学校を自主退学してた。
実家の手伝いがどうとか……詳しい事は知らねえけど。
……ん?確かあいつの実家って四国のどっかとか言ってたような……
「仕事はもう慣れた?」
「あっ、……えっとまだ」
「分からない事とか何か手伝える事あったら言ってね。協力するから。とは言ってもあと数ヶ月しかないけど」
「そんな…会長だって忙しいじゃないですか」
「何言ってるの。君には沢山助けてもらったんだからそれくらいはさせてもらわないと」
そんなの俺のセリフなのに。
会長は相変わらず優し過ぎる。
「……? なんですか?」
じっと見つめられ首を傾げると、会長はニコリと笑った。
「新、すごく成長したよね」
「え…それって」
身長の事を言ってくれてるのか⁉︎
ち、ちなみに一年の頃から3センチ伸びたんだ‼︎会長っさすがだぜっ
俺の小さな変化に気が付いてくれるなんてっ…
「なんだか雰囲気がね」
「ふ、雰囲気?」
これは上げて落としてくるタイプのやつだ。
喜んでしまったのに急に拍子抜けしてしまう。
会長はそんな俺を見てニコニコと笑った。絶対わざとだ。
「ひでえよ会長…」
「ごめんごめん。可愛いからつい」
会長の綺麗な手が伸びて、俺の頭に触れる。
微笑みながら俺の頭を撫でる会長を見ると、何も言えなくなる。
「僕ね、今年の冬休みはしばらくまた四国に行くんだ」
「あの、その四国ってもしかして」
会長は嬉しそうに笑った。
「今度はもっとお土産持って帰ってくるね。あの馬鹿にも新の事沢山聞かせてあげなくちゃ」
やっぱり、巨人のとこなんだ。
「じゃあ、これで。あいつを待たせてるんでしょ?」
会長の事は、多分出会った頃より知れたとは思う。
でも俺はいつかは忘れたけど、眼鏡と話してる時に次に会長が付き合うなら……って話をした時、絶対に男は嫌だって答えた。
「会長」
この人は優しいから、優し過ぎるから自分は損する事の方が多いに決まってる。
「なに?」
今まで触れてこなかったけど、聞くなら今……だよな。
「えっと……」
すぐ聞くはずだったのに、会長の目を見ると口籠ってしまう。
「…………新?」
「………………」
下校を知らせるチャイムが鳴る。
口を開いては閉じてを繰り返していると、会長が優しく笑った。
「……また明日」
そう言ってはにかむ会長の笑顔は眩しくて、聞かなくても全身で幸せだって言ってるみたいだった。
会長が大丈夫なら別にいいんだ。
ただ、ちょっと心配なだけで……会長はなにも話してくれないから。
けど、あの笑顔を見せられたら何も言えなくなる。
会長は、きっと幸せなんだ。
「やべ、早く行かねえと…」
急いで教室を出る。
携帯を取り出すと、メールが一件受信されていた。
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