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奪われなかったもの
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〝俺〟は父さんを尊敬していた。父さんに憧れていた。
いつかは、父さんのような立派な医者になりたいと思った。
どんな病気にも手を差し伸べられる、立派な医者。
今でも堂々と言える。俺の夢は、医者。〝俺〟から〝私〟になった今でも引き継いでいる数少ない物だ。
希望、絶望、将来、自由、平等、正気、色々な物を奪われ、見失った〝俺〟から奪われなかったのは生命、記憶、知識、夢…その程度。
夢は、見るだけなら何時までも醒めない。妄想を出なければ、叶えたいと思わなければ、永遠に奪われることはない。
「君の夢は幼少の頃から変わらないのかな?」
「…はい」
グサロフ先生が嬉しそうに笑った。はにかんでいる様にも見える。やっぱり、その姿は―……
―さら…
「…ぇ………」
「君は、夢を捨てていなかったんだね。…いや、奪われていなかった、と言うべきかな?」
大きな手が、頭を撫でていた。ゆっくり、優しく。大事なものを愛でる様に、とても緩やかに。
目が熱くなる。視界がぼやけて、どんどん目の前の顔が絵の具で描いた絵みたいに滲んでいく。
「…っぅ、……っっふ、…ぅぇぇええ…」
どんどん涙が零れて、みっともなく声をあげて泣いた。
久しぶりに出た涙は止めなく溢れて、枯れてしまうんじゃないかっていうぐらい泣きじゃくった。
「辛い思いなんて、きっと彼が二度とさせてくれないよ。大丈夫だ」
いつの間にか、抱き締められながら泣いていた。
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