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隙間だらけの器
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「君は、僕の………大切な人…だから」
仔犬さながらにしょぼんと沈み、大粒のたれ目に涙を浮かべている。
別に、こういった表情に弱いというわけではないが、僅かに残った良心は痛む…
「それに、彼―クロード卿から言伝だよ」
嫌な予感がする。あの人は人間としては根の先まで腐りきってしまっているけど、流石に何年も領民を欺いていただけあって人間関係には異常なほどの嗅覚と勘を持っている。
どうすれば誰が動き、誰が動けばどうするか、誰と誰がどんな関係なのか。
何もかも、あの人にかかれば大半のヒトは彼の掌中だ。
「『己の持つ本来の人格を忘れるな』…って」
涙が溢れそうで、右腕で目を覆う。
「…何ですか、……そ、れ……っ」
今日はよく泣く日だ。
もう駄目だ。捨てた筈のものは全て主人が拾ってきてしまったらしい。捨て過ぎて隙間だらけになった器が少しづつ元通りになっていく。
〝俺〟を取り戻していく。
「……このことは、決して口外してはなりません。ジョナス様の将来のためにも、体裁のためにも…」
一度大きく息を吸う。
この名前を口にするのは何年ぶりだろう?もう10年は経つだろうか。
「イヴ・グサロフ・クリスタンヴァル…これが、〝俺〟の本当の名前です」
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