アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
僕の初挑戦
-
ガラガラ、と保健室のドアを開けると、これはまただるそうな如月先生が椅子に腰掛けながら書類を書いていた。
「はいはいはい?誰ですか?クラス番号お名前と怪我の状況を言ってくださ?い。」
チラリともこちらを見ない先生。おそらく、まだ僕ということに気づいていない。
でもお願い。
気づいて。
もう今すぐにでも倒れそうなんだ。
「如月先せ……っゴホッゲホッガッ…」
苦しくて膝をついたら、その拍子に咳が出た。口に閉じ込めていた血が、一斉に外に飛び出す。
「えっ吐いちゃったの?…ってアズマくん!!」
あ、やっと気がついた。
でも遅いよ。
吐いちゃったじゃん、血。
唾液とかで薄くなってるのかなとか思ってたけど、随分と真っ赤な血だった。でも、それっていいのかな?悪いのかな?
あ、死にそう。
上半身を支えるのも辛くてバタッと倒れたら、慌てて先生がベッドまで運んでくれた。
「せ、んせ……」
「どうしたの!?痛い!?」
先生泣きそうじゃん。僕なんかのために。
「ベッ…ド………血、ついちゃう…よ……」
倒れた時、床に吐いた血が僕にべっとりついていた。そんな僕がベッドなんかに寝たら、ベットが血だらけになるよ。
「そんなことどうでもいいよ!!ベッドなんて後でいいから!!」
そう?ならよかった。
正直、意識を保つので精一杯なんだ。
あー。僕、死ぬのかな?
まだ死ねないんだけどなぁ。
先生がどこかに行こうと立ち上がって、僕の側から離れた。
それが無性に嫌で、恐くて、思わず先生の服の端を掴んだ。
「……か、…な……で…」
行かないで。
側にいて。
その言葉を本当に言いたい人は、もう僕の隣にはいないけど。
それでも、隣に誰もいないのは寂しいんだ。
僕の願いを察したのか、先生は椅子を持ってきてベッドの隣に座ってくれた。
「喋ってる方が安心するなら、喋ってもいいよ。ただし、無理はしないでね?」
さすが先生。わかってんじゃん。
僕は喉に残った血にむせながらも、さっき起きたことを話していった。
シュウくんがみんなに嘘を言ったこと。
その内容は、事実と全然違うこと。
だけどそれをみんなが信じて、僕は「最低」って言われたこと。
途中から涙まで溢れてきて、うまく喋れたかはわからない。
それでも、先生は最後まで僕の話を聞いてくれた。
「……でね、ヒトミ…僕の好きな人も、シュウくんの言ってること……しんじたみたい……ほっぺた2回も…殴られちゃった……」
笑おうとするけど、表情筋が固まってうまく笑えない。でも、今は笑う必要ないのかな?
「だから、僕……ちゃんと演じたんだよ…だって、ほら……みんなを守るなら、僕は近くにいない方が……いいで、しょ?」
先生が、僕の手にそっと手を重ねてくれた。僕はその手を握り締める。
強く。強く。
「初、めてだったんだよ……自分の、ホントの気持ちを伝えたのも、みんなを守るために嘘ついたのも……」
「…うん。」
「初、挑戦だったんだ……それでも、僕、頑張ったよ……ちゃんと、気持ち……殺せたよ…」
ね?褒めて。
掠れながら言ったその言葉に、先生はなんでか泣きそうな顔をした。
「うん、うん。そうだろうね。アズマくんは頑張ったよ。偉い。」
泣きそうになりながら笑う先生は、酷くへんてこな顔になっていた。でも、僕はそんなへんてこな顔を見て、さらに泣いてしまった。
ヒトミ。
ヒトミ。
好き。
大好き。
ばいばい。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
23 / 112