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僕の幸福理論
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病気になってからずっと、周りの大人には我が儘ばかり言ってきた。
全ては、「みんなに今までの恩を返したい」という気持ちから始まって。
なんで、こんなことになったんだろう。
恩を返す?
じゃあなんで僕はヒトミを裏切った?
こんな言葉を吐かせるまで追い詰めて。
結局僕は、何がしたいんだろうか。
「…ヒトミは、僕に何をして欲しい?」
まだ僕は、何かできるんだろうか。
僕の言葉に、ヒトミは少し驚いた顔をして、そのあとすぐに言い放った。
「俺の前から消えていなくなれ。」
消えていなくなれ。
……なんだ、まだできること、残ってたんだ。
「わかった。」
笑いながらそう言ってヒトミの手をほどき、僕はふらりと廊下に出た。
消えよう。ヒトミの望み通り。
もう誰にも迷惑がかからないように。
誰も傷つけないように。
「…アズマくん?」
そうやって歩いていたら、ちょうど如月先生が廊下にいた。
あ、メガネ借りるんだっけ?
ても、もういいや。
「もうすぐ鐘が鳴るけど、どっか行くの?」
「…はい、車椅子に筆箱置いてきちゃって。」
「?そっか。他の生徒に見られないようにね。」
「はい。」
幸い騙せたみたいだし、よかった。
そのまま先生と別れて、上に向かう。
階段を上がってるうちに体力が切れてきたけど、そんなのももうどうでもいい。
鍵を外して、ドアを開ける。
屋上は、こないだと全く同じに僕を待っていた。
もう年季が入ってるから、フェンスのころどころが錆びてたり誰かが蹴ったのか穴があいてたりしている。
そこを利用してもいいけど、フェンスにもちゃんと扉がある。
もちろん鍵はかかってたけど、南京錠だからヘアピンですぐに外せた。
ギィ、と重く軋む扉を開けて、外に出る。
なんだか、風が一段と強くなった気がして、思わず目をつむった。
胸いっぱいに息を吸い込んで、目を開ける。
そういえば、お母さんには申し訳ないことするなぁ。
そう思ったから、せめてと思ってごめんとメールをしておいた。
「…そうだ。」
ふと思い立ってメールを書く。
それを未送信フォルダに残したまま携帯を地面に置いて、足を踏み出した。
風が僕を追い抜けていく。
待って、いま、僕も行くから。
「アズマくん!!!!!!」
振り向くと、如月先生がこっちに向かって走ってきていた。
ああ、先生にもお世話になったなぁ。
体が傾いていくのを感じながら、先生に向かって笑う。
「ごめん。」
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