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僕の幸福理論
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そう、思い出した。
僕は飛び降りたんだ。
あの日、ヒトミの言葉を叶えるために。
「…あは、ははは、はははははっ…」
何が「会いたい」だ。
自分で苦しめてたんじゃないか。
それで、苦しめたくないから飛び降りたのに。
まんまと記憶を失って、また傷つけるところだった。
「アズマ?大丈夫か?」
心配したアラシが伸ばしてきた手を、僕はゆっくり掴んだ。
「アラシ、ありがと。思い出させてくれて。」
「…思い出したのカ?」
うん、思い出したよ。
もしかしたら思い出さない方が幸せだったのかもしれない。
でも、思い出してしまった今、思うことは一つ。
「思い出したよ。全部。僕は、死に損ねたんだ。」
死に損ねた。
死ぬべきだった。
僕が生きてる限り、ヒトミは苦しむ。
ヒトミの中にある、僕を好きな感情と嫌いな感情のせいで。
だから、どっちかの感情に区切りをつけてあげたかった。
なのに、このザマ。
「生きていたい。ヒトミが好き。でも、ヒトミを傷つけてまでその感情を押し付けたくない。」
これが、僕の幸福理論。
みんなが苦しまないで欲しい。
笑って欲しい。
僕が、どんなに傷ついても。
「…俺はヨォ。」
アラシの言葉に顔を上げる。
「弱ェ奴が嫌いダ。意気地ねェ奴も、口先だけの奴も、卑怯な奴も、全部ボコりたいぐらい嫌いなんだヨ。でも、そん中でも、自己犠牲で満足する奴はとびっきり嫌いなんだよネェ。」
自己犠牲。
多分、僕のことを指してるんだろうなあ。
「…それに、飛び降りた理由も、アズマの記憶喪失の原因も、イジメの真実も、全部ヒトミは知ってんゾ。」
え?
「保健医が全部言った。あのセンセーからしたら、ヒトミが全ての元凶なんだろうからナ。相当来てほしくなさそうだったケド、アズマのためにすべてを黙認する上で会えって伝えてたナ。」
ヒトミ、知っちゃったんだ。
「…それで、ヒトミは?」
やっぱり会いたくなかったのかな。
真実を知っても、許せなかったかな。
「俺はあーゆーの大ッ嫌いだけど、やり直してェみてェだぞ。謝って、もし許されるようならまたやり直したいって言ってたヨ。」
ヒトミ。
僕を許してくれるのかな。
たくさん酷いこと言って、
たくさん傷つけたのに。
「俺はあーゆーの大ッ嫌いダ。でも、決めンのはアズマ、お前だロ?」
ヒトミ。
ヒトミ。
どんなことがあっても、それでも。
「ホント、なんでこんなに?って思うほど大好きなんだよね。
会いたいよ、ヒトミに。」
それを聞いたアラシは、小さく「ハッ」と笑った。
「したら、俺が伝えて連れてきてやるヨ。保健医には…お前が伝えるカ?」
「うん、僕から先生に伝えるよ。ありがとね。」
仕方ねぇな、とアラシは笑って、子供にやるみたいに僕の頭をワシワシ撫でた。
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