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廃墟
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「…思ったより、暗いな」
ポツリと独り言を言っても、返事は帰って来ない。
それはそうだろう。
俺以外、ここには誰も居ないのだから。
夏という事で…安直だが、友達数人で、肝試しをやろうという事になったのだ。
場所は近くにある、廃墟と化した一軒家。
友達はバイトや塾の夏期講習で、予定が合わず…唯一暇だった俺が
今日、ここに下見に来たという訳だ。
電気なんか通っている訳も無く、昼間でも薄暗い。
脚元には瓦礫やら何やら色々ある所為で、既に恐い。
「オバケ出そうだな」
若干、ビビリながらも、一階を見渡し、リビング、トイレ、お風呂など…何も無い事を確認。
奥に錆びれた階段を見付け、上に行こうとした時…
カツン…
と靴音が響いた。
まさか…誰か…居る…?
こんな廃墟に?
自分の事は棚に上げ、慎重に周りを見渡すが、変わった様子は無い。
靴音は、どうやら上から聞こえているようだった。
恐々とゆっくり階段を昇る。
二階は一階よりも、廊下には物がないが、少し狭い。
白い壁は薄汚れていて、色々な所にヒビが入っている。
奥に入り、四部屋あるのを確認した後、突き当たりにある、部屋から入ろうとドアノブに手を伸ばした時…
「何してるの」
後ろから声がした。
ビックリして、後ろを振り返ると、黒髪の少年が立っていた。
少し長めの前髪に、整った綺麗な顔。
「ゆ…ゆーれい?」
間の抜けた俺の答えに、少年が馬鹿にした様に、嘲笑った。
「馬鹿じゃないの」
綺麗な顔からは、想像も出来ない低い声だ。
驚いて、何も言えない俺に苛立ったのか、少年が「邪魔」とドアから退く様に、トンッと軽く押された。
「あ…」
「何?入るんじゃないの?」
「いや…」
「変なの…大体、君はここで何してるの」
まさか、ここで肝試しをするから下見に来てます、とは言えず、黙っていると、溜息を吐かれた。
「…夏だから肝試しするとか?」
黙っているのが、肯定と捉えたのか、途端に苦い顔をされる。
「はあ…馬鹿じゃないの。不法侵入って知ってる?廃墟と化してるからって、無断で人ん家に勝手に入っちゃダメなんだよ」
グサグサっと突き刺さる言葉に何も返せない。
「でも、それだったら…お前だって…」
「君…人の話聞いてた?」
「え?」
「ここ、僕の家なんだけど」
「えええええっ?」
「煩い」
どう考えても住んでる気配も、手入れされてる形跡がないんだから、驚いても不思議じゃないだろ。
そうツッコミしたいが、下からギロリと睨まれては何も言えない。
心底鬱陶しそうに、少年は荒々しく、今にも壊れそうなドアを開け、部屋の中に入って行った。
俺も突っ立って居ても仕方ないので、彼の後に続いて、部屋に入った。
「うわあ…」
驚いた事に、この部屋だけは綺麗に管理されていた。
今まで見て来た所とは違い、人が暮らしているなと解るぐらいには、生活感が漂っていた。
ただ異様な光景だった。
部屋の中は、白い壁に白い床…家具やベッドさえも白い…全てが白で統一されていた。
失礼だが、部屋の中をジロジロ見渡して居ると、少年が少し気まずそうに俯いた。
「僕の部屋だよ…」
「…住んでるのか?」
「住んでる様に見えるの?」
「いや…」
「はあ?」
俺の返答に、馬鹿にしたような顔をされる。
初対面の筈なんだけどな…。
少年の露骨な態度に、少し憤りを感じるが、不法侵入者に優しくする訳が無いか、と無理矢理納得させる。
お互い、最悪な印象だな…。
「この部屋だけ使ってるんだよ。だから、住んでる訳じゃない」
「何に?」
「…絵を描くため」
「絵を?美術部とか?」
「…部活は入ってないよ。描きたいだけ」
「そっか」
勝気な言葉遣いとは裏腹に、淋し気な表情が気になったが、俺は、それ以上は深く訊かなかった。
「あ。靴…」
自分の脚元を見れば、土足のままだ。
脱ごうとすると、手で抑えられた。
「いいよ。僕も脱いでないから」
見れば、この少年も靴を履いたままだった。
「家じゃないのか…」
「君、一階を見たんでしょ?あんな所を素足で歩いたら、怪我するよ」
「…それもそうだな…」
彼はそのまま部屋の奥に行き、窓を開けた。
風が入ってきた所為で、白いカーテンが捲れ上がる。
それと共に、熱風が入って来た。
「…今日も暑いね」
彼の言葉に、はっとする。
今は8月の半ばだ。
クーラーなんてない筈の廃墟。
でも、この家に入ってから、汗なんか掻いてない。
それって…。
「ここは比較的涼しいから、あまり汗は掻かないよ」
「そ、そっか」
まるで、頭の中が見えているみたいだ。
タイミングの良い答えに、ビックリするが、彼は気にも留めてないようで、ベッドに腰を掛けた。
「そろそろさ…自己紹介してよ。不法侵入者さん」
にっと不敵に笑った綺麗な彼に、目を奪われた。
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