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放課後の合同演劇の練習で稽古場に来た途端、正ちゃんは凄く不機嫌だ。
昨日の騒動の真相も僕のドジのせいで聞きそびれたし、さっきまでは普通だったのに変だな?と気にはなってる。
「 凄い役に入ってますね!恐ろしい王妃そのものって感じが出てますよ。」
「 これは素だっ!!うっせぇから散れ!!」
田中くんの言葉に正ちゃんは怒鳴る。
...絶対正ちゃんのがうるさいよ。
僕が棺に収まるシーンが来ると、正ちゃんは物凄く側で凝視している。
「...ああ、○×□¥白雪姫が死んでしまった。うえーん。」
美しいと言う言葉を濁し、抑揚もへったくれも無い口調でいう獅童くんに、田中くんは盛大にため息を吐いた。
「...演技力に問題があるんでしょうか。ちょっと佐倉くん、桐谷くんに代わってここに入って貰えますか。」
「...んで俺がこんなとこ入んなきゃいけねぇんだよ...。」
「 僕、こんなとこズーッと入ってるんですけど!!」
ぷぅと膨れて起き上がると、正ちゃんが苦笑しながら「 悪かったよ。」と言う。
「 ...また落っこったら困るからな。よっと!」
正ちゃんは僕を抱え上げて棺から降ろす。みんなの見てる前で恥ずかしかったけど、大切に扱われてちょっと優越感に浸れた。
「 狭っ!!...つか、脚入んねぇんだけど...。」
棺に収まりきらない正ちゃんを見て僕も皆も笑う。
そんな中、田中くんだけは真面目な顔をして獅童くんに言う。
「 佐倉くんが死んでしまった体で演技してみて下さい。」
うんざりした顔の正ちゃんが田中くんの指示で渋々眼を閉じる。側に行った獅童くんが棺の中の正ちゃんを見てポロポロ泣き出すと、皆一様に驚いて笑うのを止めた。
「...佐倉くんっ、僕を置いて行かないでっ!..おね...がぃ...っ」
先程、僕に向けて棒読みのセリフを言った人と同一人物とは思えない、圧巻の演技力だ。
「 ...ちゃんと出来るじゃないですか。では桐谷くん、ココに戻って下さい。」
田中くんの指示で正ちゃんと場所を交代し、同じように獅童くんに演技してもらうけど、正ちゃんが入っていた時に見せた演技力は幻の如く消え失せていた。
「...ではこうしましょう。きちんと出来たら佐倉くんに頭を撫でて貰う。どうです?」
「 やるっ!!」
田中くんの提案に意気込み露に獅童くんが返事をするけど、透かさず正ちゃんが「 嫌だね。」と拒否する。
ハァ。とため息を吐いた田中くんが、今度は正ちゃんに条件を持ちかけた。
「...ではこれを了承してくれたら、注意事項第8項を佐倉くんのみ解除と言ったらやって貰えますか?」
「 やるっ!!任せとけ!!」
ぶれる事無く、正ちゃんは現金だ。意気揚々と快諾した正ちゃんが「 しっかりやれよ!」と激励すると、頬を染めた獅童くんは棺の前に踞り演技を始めた。
「...っ、...ふっ、...美しい白雪姫がっ、死んでしまったぁ...っ!!」
「 完璧ですっ!!さぁ、佐倉くん!」
「 よぉ~し、良くやった!!よぉ~しよし。」
...なんだろう。...これ。
棺から身体を起こして見た光景は、まるでムツゴロウ王国を思わせる。犬でも撫で回すように獅童くんの頭をグワシャグワシャ撫でる正ちゃん。それを嬉しそうにする獅童くんに気のせいか、シッポが見えた気がした。
「...嫉妬とか、しないんですね。」
僕と同じように、永遠のスタンバイ状態だった赤城くんがそう聞いてきて、僕はふふと笑って答える。
「 凄っいするよ?...でもアレは、...ねぇ?」
「 ですね。対、人って感じじゃ無いですね。」
赤城くんの言葉に僕は笑みを深めた。
パッと顔を上げて視界に入った、赤城と楽しそうに笑う巫女を見て、俺の焦燥感はあっさり舞い戻ってきた。
赤城にきつく当たれば巫女に悟られる。かと言って二人きりで楽しそうにするのを黙認出来そうもない。
胸の中にドス黒い感情が、澱のように溜まっていく気がした。
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